彼岸のころ、大和神社の田んぼ周りの水路の土手で彼岸花が一斉に咲きはじめた。黄ばみ始めた稲穂がわずかに頭を垂れ、境内でハギの花が初秋の風に揺れている。
境内から鉦太鼓の音が聞こえる。9月23日は大和神社の例大祭。大和路に秋を告げるまつりである。
午前中の巫女舞に続いて、午後一番に「紅しで踊り」が奉納された。青の鉢巻に手甲きゃはん、紅のたすきに紅の鼻緒のぞうり履き。手にしで(紙や木綿などを細く切りそろえた供えもの)を持ち、胸元から高くさし挙げたしでをまわして紅の花を咲かせながら、輪になってなって進む。道行から踊りの終わりまで約30分。華やかなものである。
紅しで踊りは雨乞いの踊りという。かんがい期に多量の水が必要な稲作は、雨が降らなければ豊饒が期待できない自然任せの農法。日照りが続くと旱魃になり、稲は枯死する。自然任せの時代には、旱魃に見舞われると手の施しようもなく、人々は、村のお堂に籠って数珠繰りをしたり、山上で大火を炊いて踊ったり、或いは神輿を川に投げ入れるところや掘り出した瓶を清水で洗うなど雨乞いには十数種の祈願の方法があった。
鉦を鳴らし太鼓を打ち、しでを持った者が踊り狂う雨乞い祈願は、戦前までその習俗を残していたところが方々にあった。灌漑事業の普及により農業用水が潤沢になり、雨乞い祈願も大方廃れてしまったが、今日まで祭りをを伝承しているところがある。天理市新泉町の「紅しで踊り」もその一つだ。新泉町では昔は男が白しでを持って踊っていたときくが、今は紅しでに持ち替えて女性が踊る。多分、踊りの内容も一旦廃絶になり復活された際、簡略化された部分もあるのかもしれない。磯城郡川西町の垂井神社拝殿に、しでを持って踊る「いさみ踊り」の絵馬が架かっている。たぶん、「紅しで踊り」もその絵馬のように、もう少しバラエティーがあったのかも知れない。
鹿児島に上山田太鼓踊りという雨乞いに起源すると見られる踊りがある。踊りにしでに似た用具が使われ、共通点が感じられる。回せばひらくシデを雨に見立てて、願かけをしたものであろうか。香川県には綾子踊りという雨乞い祈願の踊りがある。−平成20年9月− |