鹿児島市内から約30キロメートル、薩摩半島のほぼ中央部に位置する川辺町に磨崖の谷がある。谷筋に沿って、切り立った断崖に彫られた佛や佛塔などのレリーフが岩から浮きでている。
この谷の磨崖は、仙厳園に代表されるそれとはやや趣が異なり、普段着の親しみがある。近在の人々はことあるごとにこの谷に集い、雨乞いや祭りをし、あるいは武運を祈願することもあった。その長い歴史が磨崖の様相を豊かにしたのであろう。厳粛さのなかにどこか安らぎを感じさせる絶景が谷に移ろう。
折りから、磨崖の谷の岩屋公園で、相撲大会、学芸の発表会、農産物の直売、上山田太鼓踊りなど趣向豊かにお祭りが行われている。
上山田太鼓踊りは秀吉の朝鮮出兵に従った地元兵士の武運祈願に由来する。磨崖の谷に鉦、太鼓が響きわたり祭りは最高潮。振袖姿の物腰静かな麗人を囲むようにして、整然と激しく、繰り返し繰り返し踊りは続く。阿波踊りは歓喜、富山のおわら踊りは静なる民踊の代表格とすれば、剛勇のそれは眼前の太鼓踊りではないか。このような激しい踊りは類がないであろう。薩摩の宝として、いつまでも伝承されることを願いたい。 |