八幡浜市に保内という町がある。宮内みかんで聞こえる半農半漁の町。明治期には紡績工場があり南予の先進都市として栄えたところ。旧東洋紡績が誕生したのもこの町だった。町を貫流する宮内川の河岸一帯に当時の荷揚げ場の旧跡や洋風建築など歴史を滲ませる町の顔もある(参考)。
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三島神社 |
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カワウソ |
この町に三島神社が鎮座する。創設は宝亀5(774)年と伝え、矢野の八幡神社とともに南予の古社の一つである。多数の神像や懸仏などの神宝や宮中神社(境内小社の一つ)に額板絵が保存されている。拝殿の組棟は立派。落ち棟の先端部にカワウソの飾り瓦がこの地方の自然の豊かさを示して興味深い。カワウソは昭和30年代に周木(西予市三瓶町)で捕獲されて以降、未確認。また宇和海のどこかで発見される日もあるだろう。宇和海にはまだ豊かな自然がある。
10月22日。今日は三島神社の秋祭り。門前の各所に山車を出す各地区の錬り宿ができ、参道に露店がテントを連ねる。
午前9時ころ、神殿で神事が始まり、ウラヤス舞いが奉納されている。小一時間、神事が斎行され、次々に山車の宮入り。
1番山車は四ツ太鼓。御車、牛鬼、御船、唐獅子、御車、最後に五ツ鹿と順次、拝殿前の広庭に入場しお練りが始まった。都合3時間ほどかけ宮入。午後は御旅所まで神輿の渡御があり、その後本宮に神輿の宮入。
四ツ太鼓や御船のお練りは実にスピード豊かだ。山車を左回りに回転させる勇壮なもの。
四ツ太鼓は関西の布団太鼓(太鼓台とも)、瀬戸内のチョウーサ。赤、白、黒の蒲団を上に行くほど大きくつくり、黒の裂がかけてある。四方の柱の2か所に朱の樽を吊るす。縦に吊るした太鼓を囲んで打ち子が四方に座る。太鼓を打つ子供は化粧をほどこし、紅の襷に投げ頭巾。撥を高く上げ下げしながらゆったりとしたリズムで囃しながら太鼓を打つ。
南予地方では四ツ太鼓の形はみな同じであるが、飾り物や布団、頭巾などの色を微妙に違え、地域の特色がある。優雅で美しく、四ツ太鼓は祭りの華、山車(ダシ)の白眉であろう。
御船を山車に用いるところは瀬戸内(香川県等)や河内(大阪府)の秋祭りで類例がある。当地・保内のそれは漆を施し御座船様に造られた立派なもの。雨模様でビニールシートが掛けられていたことが惜しまれる。
御車も立派なもの。謡いも申し分がない。旗持ちの少年は化粧をほどこし、紅白の綿入りの太い鉢巻を頭、腰にも回し、バレン(化粧まわし)を締め込む。旗持ちは神様の依代であろう。牛鬼列の旗持ちも同様の装束で先頭に立つ。
牛鬼、鹿踊りもまた南予特有の出しものだ。保内の牛鬼は実に大きく立派なもの。境内がせまく感じられるほどだ。もう一つの牛鬼は子供の牛鬼。赤い布がかけてある。
保内の鹿踊りは五ツ鹿。鹿踊りが始まるころ境内は人だかりができ、祭りは最高潮に達する。
南予の秋祭りは実に盛んである。少子化や過疎化の波に飲み込まれて久しく、また近年、農水産物価格の低落に歯止めがかからなくなり、人々の暮らしは一段と厳しさを増している。牛鬼や四ツ太鼓に明るい明日を託し、南予の人々は終日、大いに祭りを祝い、楽しむのである。
−平成23年10月− |