関西では例年、6月30日に大祓えの例祭が終わるといっせに夏祭りが始まる。茅の輪くぐりと呼び習わされていて、12月末の大祓えとあわせ、年間に二度、夏、冬を迎える季節に気を入れなおし無病息災を願う古来の知恵であろう。もっとも、氏地の都合によって、7月の土日に大祓えをおこなうところもある。
しかし、一般に合理主義といわれる大阪人もこと祭りに関しては古色を尊び特に、都心部ほど顕著であるように思うのであるが、祭事へのこだわりは強い。大阪は商人の街であるから氏子の生業との関係もあるのか、夏の大祓えを7月に行うところは少なく暦どおりに行われる。大祓え後の夏祭りの日程は戦前から固定している神社が多く、氏子の都合で振り替えられることはほとんどない。また、渡御の配列などに古例が踏襲されているところも多いようである。
去る7月12日から14日にかけ、難波の八阪神社で夏祭りが行われた。戦前から一貫して本宮祭は14日である。かつては堀江や南地の花街から祭りに加わった八乙女は半世紀も前に稼業は廃絶になったが祭にその名称をとどめ、枕太鼓も健在だ。本殿脇には巨大な御獅子の建造物が加わっている。大きく開いた口の中が舞台。日本一の獅子頭であろう。
渡御の中心は神輿。太鼓台は獅子舞とともにその楽しさ、華やかさの花形である。大阪市内に、蒲団太鼓は杭全神社と難波神社のものがよく知られている。もっとも杭全神社のそれは勇壮なダンジリの影で目立たないが、大きく立派なものである。蒲団太鼓の本場、四国のそれと比較しても遜色はない。
蒲団太鼓は四国ではチョーサとよばれている。綿文化圏のシンボルといってよいであろう。もうひとつの太鼓台は枕太鼓。大阪市内では生国魂神社、天満宮、八阪神社のものがよく知られている。ダシの中央に糸巻形の太鼓が縦に据えられ、その前後から各2、3人の奏者が歌を歌いながら小槌のようなバチを器用に操って太鼓を叩く。ダシの前後に直径60センチ、長さ1メートル7、80センチの大枕が結わえられている。生国魂神社の報知太鼓、天満宮の催太鼓、八阪神社のものは御迎太鼓、宮付太鼓、子供太鼓の名がある。
7月14日、台風の接近によって子供太鼓の奉納を除き、八阪神社本宮祭の午後からの行事はすべて中止となった。夕暮れ時、子供太鼓の元気な音色が、難波の梅雨空を吹き飛ばしている。-平成19年7月- |