南丹市美山町に樫原というところがある。由良川上流部の山間にあってその自然は限りなく豊かである。雲をつく高い峰はないが大野ダム湖がひらけ、深い森と黄ばみ始めた渓谷が美しい。
湖周の一筋の道を行くと大原神社という古社がある。全国の大原神社の元宮と伝え、園部藩主の祈願所として栄えた社である。境内に摂社や多くの小社、山の神を祀り、春秋の例祭は今も盛んである。
10月8日は摂社・川上神社の秋祭り。からす田楽が奉納される。午後1時過ぎ、境内の社務所からシャッ、シャッとササラを擦る乾いた音がきこえる。本番を控えた慣らしのようであり、最終の調整が行われている。
田楽は午後2時から拝殿でひと踊り。次に拝殿から山の神を祀る祠前、摂社川上神社前に移動し順次、田楽が奉納された。演者は舞い方4人、太鼓方4人、笛方1人総数9人。装束は全員、黒紋付の裃に白足袋。舞い方中、からす役の1人は、烏帽子姿。
踊りはビンザサラ(板状につづられた31枚の板)を打ち鳴らしながら笛、太鼓のリズムにあわせで踊る。舞い手は立ったりかがんだり、社殿や祠に尻を向けないよう横向きになりすり足で3歩、さらに180度方向を変え3歩進むなどして踊る。演技中烏帽子を被ったカラス役の舞い方はカア、カア、カアと鳴きながら3度、ピョン、ピョンと跳ね踊る。いわゆる空中拝であるが田楽の発展過程で散楽の影響を受けたものであろう。
総じて当社の田楽は踊りの動きはきわめて少なく華美を排した古式の神事芸能といえる。また、京都府下では、からすに真似た跳躍拝を演ずる田楽はほとんど廃絶に至り貴重である。また山の神の祠前で行われる火焚き行事は、木材や薪炭の一大産地であった北桑田の古俗を示しているのだろう。−平成30年10月8日− |