湖国の野山にフジが咲き、代かきが始まった田んぼにわずかに水草が浮きはじめた。5月3日は杉之木神社(竜王町山之上地区)のケンケトまつり。同社は女神と考えられ、近くの八坂神社から男神を迎えるまつりである。女神は鷺(サギ)の鳥形を頂いたダシを依代として、イナブロとも呼ばれる。その下に五色の紙を垂らし三方に綱をひき、移動に合わせてバランスを取りつつ進む。一般に、風流踊りの先頭は傘鉾である場合が多いのだが、ここでは、長刀振り(11〜21歳の男子。フリコ)、アト振り(鉦・太鼓・太刀。アガリ)の後にイナブロがつき順序が逆である。イナブロに相当の重量がありかつ、その重心が上方にあって屈強の若者をもってしてもなかなか移動に骨が折れるようであり、まして道中、見物人が乱入し、五色の紙を奪おうとしてイナブロを倒しにかかり、警護の者と揉みあいになりイナブロが押し倒される場面もあり事故予防から後方に控えるのだろうか。イナブロの五色の紙は虫除け、家内安全の護符となる。氏地に、それを拾って家に持ち帰る風がある。イナブロと見物人の力闘に期待するところもあるわけである。それもまたまつり見物の楽しみのひとつになっているのだろう。
山之上地区のフリコは数十名、器用に太刀を扱い、ケンケト…云々の掛け声とともに進行し、それが祭りの名称に通じているようである。装束も特異である。祭り襦袢に兵児帯を締めその上からまわし状に白布(チリメン帯)を巻き浄衣を表現する。腰巻きは5色のカラフルないでたちでその下方に鈴が付く。襦袢の背中に縫い付けた鈴飾りとともに魔除けの意味合いもあるのだろう。イナブロといいフリコ衣装といいなかなか見どころも多い道行きである。
杉之木神社の境内では、午後2時半過ぎから、山之上の隣接地・宮川地区(東近江市蒲生)の大踊り、小踊りが奉納される。笛、三味線、鼓、小太鼓の囃子で稚児の小踊り、少年の三度笠を使った大踊りが奉納される。
山之上・宮川地区は中世、ともに京都祇園社の庄園で知られたところである。その繁栄のよすがをまつりにとどめ、年番神主など古い宮座組織によって地区一統のまつりが伝承されている。この宮座の存在こそが近江の処々に古いまつりをとどめる由縁でもあろう。−平成21年5月−
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