法華津(ほけつ)湾が雨に煙っている。沖ゆく2艘の船は網船であろう。緩やかな航跡を描いて網を曳く。イワシ、シラスは宇和海の特産。陸では温州ミカンの収穫が始まり、高山の集荷場では摘果の講習が行われている。見上げれば耕して天にも至るミカン畑が美しい。10月21日、午前中から雨模様、止む気配もない。
高山の秋祭りは10月21日から3日間(2011年)。賀茂神社の大祭である。南予一般の秋祭りの期日より1日長く、高山の祭りは実に盛んである。牛鬼や五ツ鹿、神輿などが出て賑わう。
10月21日は宵宮。宵宮の呼び物は裸祭。いわゆる潮垢離(シオゴリ)が浜で行われる。神具である竹で編まれた牛鬼の骨格(メド)を1日海水に浸しておき洗い清め、同時に神輿や牛鬼を舁(か)く者や祭りの警護に当たる若衆が海水で斎戒沐浴する神事である。祭りの神具を洗い、神職や頭屋などが禊(みそぎ)をする神事は讃岐の梛の宮の秋祭り(善通寺市中村町)などに散見されるが、禊自体が大祭のメイン行事の一つとしているところはそう多くはないだろう。
シオゴリは3組(中神、前神、後神)の若衆によって行われる。沿道に「警護」と書いた提灯が灯る宿が3か所ある。昔の若者宿の伝統がこの町ほど尊重されていることろはない。若衆は組ごとに定められた宿に分宿し、シオゴリの準備を進めるのである。
午後6時45分、シオゴリの会場となる浜に祭壇を設け、三方に御饌を盛り神事がはじまる。同50分ころ井桁に組まれた3か所の割木に一斉に火が放たれた。大火が波止場を赤々と照らす。同7時ころ注連縄を張った港の入口から次々とフンドシに藁草履姿の若衆が会場になだれ込み大火の周りに終結。いよいよシオゴリの始まりである。(写真上)
若衆らは二人、三人と肩を組み、一斉に走り出し、浜の雁木を飛び越えて次々と海中に飛び込む。大火で暖をとりながら、飛び込み、雁木を駆け上がり、また飛び込む。 |