わが国では古来、朝廷において5月5日の行事として「くらべうま」が行われ、平安時代には親王以下諸官が走馬を献上し、武徳殿の庭で2頭立の競馬が行われた。賀茂競馬はこの武徳殿の競馬を移したものと伝えている。また5月15日には賀茂祭(葵祭)において、上賀茂神社、下賀茂神社において走馬の行事がある。これは2頭立てでなく、鈴を懸けた馬が1頭づつ社前の馬場を走るもので、五穀豊穣を願って欽明天皇のころから始まったとものと伝えている。
全国にも神殿周りを馬が駆け回ったり、飾り付けをした馬の風流行列を行っているところがある。いずれもその淵源は、馬の力を確かめて五穀豊穣願うという心意にある。私たち農耕民族にとって馬はその馬力によって人の何倍もの力を発揮するかけがえのない労働力であった。馬は人同様にいつくしみ、育てられた。そうした五穀豊穣を願う日本人の心意のもと、神の召す馬の力を確かめる行事が大荘園主であった賀茂社のもとで祭事化し、全国に広がって行ったのではないだろうか。京の北辺で、古儀を失うことなく今日まで賀茂競馬や賀茂祭が伝えられてきたことは驚嘆の一言に尽きる。−平成24年5月− |