京都
多久の芝むくり(チャア)−京丹波市峰山町丹波−
 テンテコ テンテコ 、テンテコ テンテコ  澄みわたる丹後の空に、太鼓の音が心地よく響く。
 連休の中日、10月12日(日)午後1時、神輿の渡御を先導して芝むくりの一行が多久神社を出発。鉢巻、袴、白足袋に雪駄ばきで威儀を正した若者が採り物を携え、一行を先導する。採り物は紅白の紙を巻いた竹の先に杉の枝葉を結え、笹竹が刺してある。笹竹の下に大きなラグビーボール様の貼りぼてを吊り、猿田彦と天宇受売命(アメノウズメノミコト)の顔が描かれ、根元にうちわ、金銀の紙を巻いた鳴子様のものが結んである。先導の後ろに、猿役で頭に棕櫚を縫いさした小さなシャグマを被り、こげ茶色の法被と股引きに高下駄、白足袋姿の少年2名が紅白の紙を巻いた採り物を携えて行く。次に絣の着物に高下駄、白足袋で白布の襷姿で腹前に太鼓を縛った少年6名がテンテコ テンテコ太鼓を叩きながら進む。その後ろに稚児2名が続き、御幣を持った大人が最後尾を務める。
 神社を出た芝むくり一行はお旅所(広場。北近畿タンゴ鉄道峰山駅近く)、四辻、寺で芝むくりを奉納。還幸後に神社で1曲、都合4回奉納された。
 芝むくり(ちゃあ)
芝むくり(ちゃあ)
 多久神社の氏地はずいぶん広く、大字・丹波の全域に及ぶほど大きく、延喜式内社に違わない格式を備えた社。神社を出て1時間。締太鼓を叩きながら氏地の道行き。神社から約50分かけ、一時、休憩をとりながら御旅所に到着。午後2時から芝むくりが奉納された。
 広場に筵を敷き、シャグマの少年2名が正座。筵の後に締太鼓の少年6名が横一列に並ぶ。稚児2名は舞台左手のソデに控える。まずは少年6名によって神事歌が奉納された。
 次に芝むくりの奉納。締太鼓の囃子で、莚の上でシャグマの少年2名によって演じられるいわばアクロバット芸。囃子は大宮売神社における笹ばやし(秋祭り)の体に類似するがシンボシ役がここでは猿役になり替わっている。猿役の少年2名の演技は風流の芸系に属するものだ。この種の風流は全国的にもほとんど廃絶に至ったとみられ、貴重な芸能である。
 芝むくりの別称は「チャア」。 テンテコ テンテコ “チャア” と演技の節目に囃す囃し言葉に由来するもののようである。曲の終わりに先導の若者がシャグマの少年に声をかけ、少年2名がくるくる回転し終局。
 芝むくりの演者は、小学4〜6年の少年。大分、難しい技もあり演技直前まで先達から指導を受け、舞台に立つ。1ステージ30分の奉納。天候に恵まれ大変、よい祭りだった。−平成26年10月−

京丹後の祭り
 古来、祭りは神社の祭日に縛られ、平日に行われるところが多かった。京・大阪市内や、丹後地方の与謝郡内などでは今でも神社の例大祭の日取りを堅持することろがある一方、陽暦の祝祭日に合わせ、祭りの日程を申し合わせるところもある。京丹後においては、今年の秋祭りは10月12日(日)に統一されたという。祭りは観光ではなく、氏地・氏子の祭礼であるから氏子の都合にあわせて斉行されること大変、結構なことであり、これも時代の流れであろう。
 10月12日(日)、丹後地方を逍遥した。好天に恵まれひねもす行く先々で太鼓の音が途切れることがなかった。
 京丹後市弥栄町の春日神社の祭礼では、布団太鼓が巡幸(写真上)。紅白の裂を回した大変重い立派な山車だった。山陰で布団太鼓は珍しく、感じ入っていると、サンドウィッチや缶ジュースをふるまっていただいた。頓首!
 新田神楽
ギヤタイ
 大宮町の大型スーパーの前では、新田地区の神楽やギヤタイ(少年30名余による踊りと太鼓)が奉納された。店頭は黒山の人だかり。当地の神楽は伊勢大神楽の芸系に属するもののようである。4人舞い(獅子舞)が演じられた。親方の撥さばきも軽やかに剣の舞、鈴の舞、おこり舞が披露され、拍手喝采。現代風にアレンジされた曲は新田ならではのもの。市民の熱狂ぶりは安芸(広島県)、出雲の神楽に勝るとも劣らないものがある。こうして祭りの国・京丹後の秋祭りは日暮れとともに幕を閉じる。
(余禄)
 丹後は日本の長寿国。近年、世界の最長寿者を生み、注目されるようになった。日本海に向かい合った丹後に、寒く暗いイメージがあって俄かに信じ難たかったが、当地を尋ねると澄みきった空とスーパーや魚屋の店頭に地元産の新鮮な魚介が並び、何よりも古色を失わないまつりがこの国の長寿を支えていることがわかる。
 「それだけじゃありませんよ。ここ京丹後は温泉の町。市内に40か所、温泉があります。湯量も豊富。クロニンニクなども特産品。農家や市民の食への関心は強いです。この小さな町で、100歳以上が63人(全国54357人)、95〜99才が372人、信じられますか。データは少し古くなりましたが、京丹後の長寿者はもっともっと増えますよ。」とスラスラ。82歳になるというこの男性は京丹後市弥栄町の人。いやはや頭脳は明晰で、腰や足の節々が痛む僕とは異なり、老いてなお盛んである。京丹後の鉄人に出会い、活力を得て、また旅してみたい丹後になった。

参考:
木津の布団太鼓 祇園祭(京都) 天神祭の催太鼓  杭全神社の夏祭り八阪神社の枕太鼓  生国魂神社の枕太鼓   秋祭り(藤井寺) 枚方のふとん太鼓 科長神社の夏祭り 岸和田のだんじり祭り 南祭(大阪) 龍田大社の秋祭り(奈良) 小豆島の秋祭り 牟礼のチョーサ(香川) 七ツ鹿踊り  南予の秋祭り 保内の四ツ太鼓(愛媛)