堅香子の花(カタクリ)−交野市私市(大阪市立大学理学部附属植物園)− |
もののふの 八十娘子らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子の花 (万葉集 大伴家持) |
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桜の花が咲くころ、交野市所在の大阪市立大学植物園の雑木林でカタクリの花が咲きはじめた。
カタクリの古名は堅香子(カタカゴ)。大伴家持が越中の国府で歌った標記の万葉歌がカタクリの最古の記録であろう。寺井に集う娘子らの弾んだ声が聞えるようであるが、家持の心は深く沈み、寺井のかたわらでうつむきかげんに咲くカタクリの花に己が心を託した家持がいる。それは武門で名をなした古代の名族が藤原一族に覇権を奪われた自虐と滅びの歌でもあった。雲雀の囀りや鶯の声にも、叢竹に吹く風にすら一族の末路を予感した家持であった。
カタクリの花はユリ科の宿根草。地下茎から片栗粉を製する。今ではカラクリからでんぷんをとることもなくなった。四国の阿讃山地の人々の春の山行きはカタクリの地下茎を掘り片栗粉をとる楽しみが同居していたにせよ到底、この花の可憐さを愛でるものではなかった。「かたかごの花に歌なき吾妻かな」<東川>、「片栗の花とも知らず見過ごしけり」<漂舟>の句がある。古人は食用としてのカタクリにその美しさを爆発させることはなかったのである。
ヤブツバキ、ミズキ、モクレン、ミスミソウ、ミツバツツジ、スミレ・・・等々、早春の植物園の野を行けば植物相も実に豊かである。都会地において、これほど広大な園地が適当な利用料で市民に開放され、四季折々の植物観察或いは散策などに利用され親しまれる大学施設も多くはない。一度は訪問したい植物園の一つである。−平成21年3月− |
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