麻里布の浦−岩国市−
眞楫まかぢ貫き船し行かずば見れど飽かぬ麻里布まりふの浦に宿りせましを  <万葉集 巻15 3630>
 天平8年(736年)、遣新羅使一行が麻里布の浦を通りがかったときに詠んだ歌が8首、万葉集に収録されている。麻里布は今の岩国市に比定されている。JR岩国駅の駅前辺りに「麻里布」の古名が残っている。
 岩国は、錦川の扇状地に開けた町。天平時代から千三百年を経た今日、岩国の海岸線は、土砂の堆積や埋め立てによって相当前進したことであろう。遣新羅使が通りがかった時代の岩国は今の麻里布よりさらに北側の室の木辺りが海岸線であったという説もある。しかし、地名はそれほど移動するものとは思われず、今の麻里布はやっぱり麻里布浦と呼ばれていたのではないだろうか。
 岩国は化学工場や基地が展開する瀬戸内海沿岸、有数の工業都市。いまでは「見れど飽かぬ麻里布の浦」や「濱清き麻里布の浦」を追想することは叶わなくなった。遣新羅使が通りかかったであろう今津川の河口辺り(写真左)から、麻里布の浦を思ってみるのもよいだろう。−平成18年5月−

遣新羅使詠歌(万葉集)
暗峠越えの道 家島 多麻の浦 鞆の浦
長井の浦 風早の浦 倉橋島 麻里布の浦
大島の鳴門 熊毛の浦 祝島 鴻臚館跡
荒津の崎 唐泊 引津の泊 神集島
壱岐・原の辻遺跡 対馬の運河 対馬・竹敷の浦 参考:(磐国山)