万葉の島(倉橋島)−呉市倉橋町本浦(桂浜)−                          
  恋繁み慰めかねて晩蝉ひぐらしの鳴く島かげに蘆するかも
                          〈万葉集 巻15 3620〉
  我が命を長門の島の小松原幾世を経てか神さびわたる 
                         〈万葉集 巻15 3621〉 
倉橋島 倉橋島の南海岸に本浦というところがある。天然の良港を成し、その東岸が桂浜である。桂浜神社が鎮座するところ。
 倉橋島は古来、瀬戸内海随一の和船の生産地だった。造船所が48座あったと伝えられる。
 当地に日本で最初の西洋式ドックの跡が保存されている。怒和ぬわ屋が船台上での建造からドッグに切替えたものであるが、地の利を得ずやがて他の船座も壊滅。職人は、川崎造船所、呉の海軍工廠などに吸収されていったという。ドッグ跡はいま船溜になっている。
 厳島神社の管絃祭で使用される御座船は倉橋島から献納される慣わしがある。ドック近くの道路沿いの船屋に御座船の展示場がある。
  倉橋島の造船博物館には、実物大の遣唐使船が展示されている。乗船の追体験ができる。船は島の船大工によって復元されたという。和船建造の長い歴史がみえる島。
 倉橋島は昔、長門島とよばれた。筑紫に通ずる海路の要衝にあって、瀬戸内海の泊地となった島である。本浦とみられる泊に遣新羅使船が停泊し、そのときに詠われた歌が万葉集に8首遺されている。ひしひしと迫る望郷の念を絶ち難く、ぼんやりとした不安を歌ににじませる。老松が茂る桂浜に大きな万葉歌碑が建っている。−平成18年4月−

遣新羅使詠歌(万葉集)
暗峠越えの道 家島 多麻の浦 鞆の浦
長井の浦 風早の浦 倉橋島 麻里布の浦
大島の鳴門 熊毛の浦 祝島 鴻臚館跡
荒津の崎 唐泊 引津の泊 神集島
壱岐・原の辻遺跡 対馬の運河 対馬・竹敷の浦 参考:(磐国山)