九州の庚申信仰は随分盛んであり、いたるところで信仰の証である庚申塔を見出すことができる。
九州では仏式の青面金剛を配した像刻塔はほとんどみられず、庚申天若しくは神式の猿田彦大神等々と彫りこんだ文字塔が主流をなし、かつ神式のものが圧倒的に多い。 山鹿市に大宮神社(写真左下)という社がある。神殿の裏手に庚申塔が並んでいるが、総数は49基。猿田彦の文字塔である。玄武岩を用いたものが多いようであるが、自然石をうまく使い文字が刻まれている。一箇所に集められたものとしては九州屈指の数であろう。
庚申塔の像立の趣旨は様々であったかと思うが、通例、庚申講の結成或いは庚申待ちの回数が目標に達したときなどに立てられる場合が多い。庚申信仰は、60日に1度訪れる庚申の日に体内からサンシの虫が抜け出て、悪事を天の神に告げるという俗信から、虫が抜け出ないように夜っぴて飲食をする風(庚申待ちという)が生まれ、特に江戸期に盛んだった。道祖信仰とも結びつき、庚申塔は道路の辻に建てられることが多かった。
社寺の境内で庚申塔を見かけることが多いのは、明治期に庚申塔を社寺に集めるべく政府による指導がなされたことによるものである。−平成17年12月− |