近畿風雲抄
奈良
環濠の風景−北葛城郡広陵町南郷−
南郷の環濠 広陵町の南部、葛城川の左岸に南郷という地区がある。集落の外辺に濠が廻る。ほぼ四角形をなす環濠内はカイト(垣内)とよばれ、五つの小区が存在している。カイトはもともと外敵からの防衛や獣害防除の目的を持ち、農耕の発生期から存在した。福岡の比恵環濠集落遺跡平塚川添遺跡にその原初形を見出すことができる。
 南郷は中世の環濠集落であり、濠の規模も随分大きなものだ。このような環濠集落が奈良、京都、大阪には随分残っていて、今でも水利を補う役目がある。
 南郷の山王神社境内に小堂がある。石造浮彫の伝弥勒菩薩坐像(写真右下)が祀られている。永治2(1141)年の刻銘がある。県下最古の在銘石仏である。砂岩質のようであり風化が進んでいる。
 葛城川を挟んで南郷の対岸に百済寺が所在する。遠目に姿の良い三重塔がみえる。南郷の北西、馬見丘陵の南端には巣山古墳がある。戦前の教科書に採用された模式的で美しい前方後円墳である。百済野や馬見丘陵に遊ぶことがあってもよいだろう。−平成20年3月−

伝弥勒菩薩坐像
百済寺 伝弥勒菩薩坐像
(山王神社境内)
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