九州絶佳選
福岡
平塚川添遺跡−甘木市平塚−
 ・・・三重の内濠と幾重もの外濠が満々と水を湛え、濠でカモが羽を休めている。冬の昼下がり、若い女性が高床式倉庫から籾を運ぶ壮年の男と立ち話をする姿が見える。男は、このクニの高位の者のようである。  「内濠の柵が朽ちかけている。濠にも丸太橋を架けてくれ、カモを追っていて子供が濠に落ちてしまった・・・」と、あれこれ陳情をしている様子である。傍らに、タモで魚をすくう子供の姿が見える。・・・そのような光景が目に浮かぶような平塚川添遺跡が復元された。冬の陽が濠の水面に反射して、きらきらと輝いている。
 遺跡は、17ヘクタールにもおよぶ弥生遺跡。楼閣や大型の掘立柱、工房などの建物遺構や前漢鏡、鉄戈などの金属器、イモガイ、おびただしい農耕具等が出土している。内濠と外濠の間に設けられた別区は、小居住区であることもわかった。遺跡は、四周に平野が広がるクニの枢要部であったのだろう。
 遺跡は大正期から知られていた周知の遺跡。10年ほど前、本格的な発掘調査が行われ、次第に全容が明らかになりつつある。遺跡は低湿地にあり、木製品の保存状態もよい。九州には環濠遺跡がずいぶん所在するが、大半は埋め戻されていることを考えると、平塚川添遺跡において環濠、大型建物が復元されたことは画期的である。私たちはこの復元によって歴史の追体験が可能となった。
 甘木歴史資料館に出土遺物が保存、展示されているので見学されるとよい。資料館には、甘木地方の民俗関係資料の展示も充実している。よい資料館である。−平成18年2月−


平塚川添遺跡

甘木歴史資料館