京都
ヤマフジ(才の神の藤)−福知山市大江町−
草臥れて宿借る頃や藤の花 <芭蕉>
 春5月、丹後の南有路のひっそりとした谷あいでフジの花が咲いた。約30メートル四方の藤棚に満開のヤマフジが風に揺れ、かすかな香りを放っている。樹齢2000年という。
 ケヤキの巨樹にからまって成長したフジの根元はふた抱えほどもある。森の巨人だ。何時しかフジは神と崇められ、祠ができ、「才の神」と呼ばれるようになった。主に婦人の守り神として崇めれている。清楚で可憐、気品に満ちたヤマフジはなるほど女神を連想させる。さらにこのフジは、崇神天皇の治下における四道将軍丹波道主命の丹波派遣の事績伝説や景行天皇の妹・倭姫命の造道伝説に絡むこの地方の民話に登場するフジである。古い歴史の語り部だ。それはまた、神話と歴史時代の過渡期の民話としても有意義なものだ。
 フジが咲く谷あいの道を1キロほど降ると由良川。滔々と流れる川の河口は日本海にひらけた由良の門である。遡ると昔の何鹿郡。私市丸山古墳聖塚など首長墓が所在する。古代史上、この地方がもっとも輝いた時代の遺跡である。5月のころ山家、立木など由良川沿いのヤマフジは実に美しい。南松の桜も良い。丹波の野山がもっとも映える季節である。−平成21年5月− 

才の神の藤