京都府の南部、木津川の右岸地に井手町がある。往古は橘諸兄の別業地の一部となっていて、井堤寺が建ち、聖武天皇の行幸が伝えられるところである。そこは加茂に近く恭仁京の誘致に諸兄が深くかかわったのもそうした事情によるものだろう。
当地はまた花の名所としてきこえるところ。桜の季節になると玉川の土手に花見客が絶えることはない。山麓で地蔵院のシダレザクラが爛漫の春を告げる。
玉川はまたヤマブキの花できこえたところだった。近年、少しずつ増殖の兆しがあり、サクラとともにヤマブキの花を愛でる人も多くなった。 −ほろほろと山吹ちるか瀧の音(芭蕉)−
月替わりの5月下旬ころ、ヤマブキが終わると上流部でウツギが咲きはじめる。渓谷を4キロほど行くとタニウツギが谷川をピンクに染めノイバラが芳香を放っている。タニウツギの見ごろは1週間ほど。ウグイスが鳴き玉川はなんともよい雰囲気である。
タニウツギの花はうすいピンクのロート状。花冠が5裂し、葉腋に穂状に花をつけ楚々としたイメージである。花期は短い。庭に植えられるベニウツギはタニウツギの変種である。紅色。関西では見かけることが少ないが奈良県吉野地方で目にすることがある。−平成21年5月− |