4月下旬、水田の代掻きが始まり、水はりがすみ、田植えの準備が終わるころ、水田の畦や水路敷にニリンソウが咲きはじめる。1年中で農家が最も忙しい時期にあたり、この花は古来、愛でられることもなく散っていく。むしろ農家には厄介な草として除草の対象とされ、全国のほとんどの地域で自生地を失ってしまった。
しかし、幸いにも宇治山田の一部の山間地の集落では除草に農薬が過剰に散布されることもなく、草刈のすんだ畦で毎年、ニリンソウの大きな群落が現れ、畦という畦や空き地がことごとくニリンソウで埋まる。ほのかにピンク色に染まった花が薫風に揺れる。この集落には古風な自然が良く似合う。
宇治田原はニチンソウの京都府下における1等の自生地かと思われるが、ニリンソウと同種のイチリンソウの自生地は極めて少ない。鷲峰山麓の沢筋に僅かに確認できる程度である。
ニリンソウの自生地がある和束町でも状況は同じである。いずれもキンポウゲ科の植物であるが、僅かな気象条件が影響するものか。志賀郷(綾部市)などの奥丹波や丹後地方ではニリンソウの自生地は少なく、むしろイチリンソウが多いことを思うと、イチリンソウはやや寒冷地を適地としているのかもしれない。−平成24年4月− |