京都
ヒトリシズカ(一人静)−綴喜郡宇治田原町−

ヒトリシズカ
ヒトリシズカ
 「二人静(ふたりしずか)」という謡曲がある。2人の「静(しずか)」中、1人は吉野で菜摘女にとりついた静御前の霊、もう1人はどこからとなく現れた静御前の亡霊。奇しくも源義経の愛妾・静御前の2人の霊がめぐりあい、「昔を今になすよしもがな」と義経との悲恋を語り合い、義経の回向を乞うという筋書き。世阿弥の独壇場の幻想曲だ。
 野草・二人静(フタリシズカ)はこの謡曲から命名されたもの。吉野静とも。花穂をつけた姿は踊っているようにも見える。野草・一人静(ヒトリヒズカ)も同旨で謡曲に語源が求められる。草は杉、桧が生える鬱蒼とした林床に自生し、フタリシズカの花穂は2本(2本以上のものもあり。ヒトリシズカは1本)、開花期はヒトリシズカがフタリシズカより少し早く4〜5月、葉はフタリシズカの方が大きく大雑把な印象。
 永く機会を得ず、ヒトリシズカを観察することができなかったが、ようやく鷲峰山麓(宇治田原町)の自生地でめぐり合うことができた。青茎のそれであった。林床で鎌首をもたげるアオマムシグサの威嚇を受けつつ、一生懸命に舞うヒトリシズカは1人ゆえ一層けなげに舞っているようにもみえる。−平成24年4月−