京都
藤の咲くころ-綾部市-
シラフジ<拡大
(撮影地:綾部市)
 4月の下旬のころ関西、いや関西以西の山の端や峡谷の縁にフジが咲きはじめ、5月の初旬から中旬にかけ田植のころ満開になる。フジの花は一般的には紫。まれに白の花を咲かせる。
 これはヤマフジ(右巻き)の例。別にノダフジ(左巻き)があってヤマフジの花(総状花序)はノダフジほど長くはない。特に、シロバナヤマフジの花はフジとは気づきにくいほど短い花序のものがある。
 古人はフジを田植の準備の目安としたものか。花が咲き始めると起耕或いは代掻きなどを行った。
 フジは藤布に織り作業着などに用いられ、今でも丹後半島の山懐でその伝統が残っている。またフジの花にはその美しさとともに情愛を感じさせる清楚さがあって二十六首の詩が万葉集に載せられた。その一つに、
春べ咲く 藤のうら葉の うら安に さ寝る夜ぞなき 子ろをし思へば (万葉集 3504))
とある。歌詞中、「子ろ」の原文は「兒呂」で東語。兒や女をさす。うら葉は葉の末葉。女性のことを想っているので、安らかに寝る夜はありませんというわけだ。初二句はウラの音を繰返し、上品かつ調子よくうたっているが恋にも骨太さを感じさせ、万葉歌の真髄を失ってはいない。
 過日、両丹境の西坂(綾部市)を通行中、見事なヤマフジ(シラフジ)を見た。近くにある「才の神の藤」の古木とは異なる清新さがある。山の端から3、40メートルほど這い上っている。
 丹波の川淵や山の端を巡るとフジは目だって多い。これもまた市域全域が過疎指定を受け、つる切りもままならない現状と同居するのだろう。もっとも西坂のシラフジは池内(舞鶴市寺田)のシラフジ同様、住居の借景或いは景観創出の意図があるのだろう。-令和5年4月27日-
(撮影地:綾部市)