カヤグロの風景-木屋平村川上-
 穴吹川の源流域、剣山(1955b)の北東麓に木屋平村という人口1500人ほどの村がある。村の中央を貫流する穴吹川に沿って国道438号線が剣山に向かって糸を引く。下流の穴吹町で吉野川に合流する穴吹川もこの村辺りまで遡ると、一層透明度を増す。うっすらと緑がかった片岩の川底を流れる水はルビー色して大変美しいものである。
  木屋平村には、阿波の開発者であり、中世に山岳武士団を率いた忌部の首領三木家が所在し、ご当主も健在である。
  木屋平村の最奥部に「川上」という地区がある。冬の頃、秋口に刈り取ったカヤを束ねて積み上げた「カヤグロ」が道路端や山の斜面を拓いた畑にぽつん、ぽつんと立ち、木屋平に冬ごもりの季節の到来を告げている。
 「秋に刈り取ったカヤをカヤグロにして保存します。堆肥にもなるけん。」 と、村人は、カヤといえども焼き捨てることはない。自然との共生を伝来の教えとして守り続けているのである。「ソバなども自家消費分くらいはつくりますよ。」とのことである。雪が融ければ、まもなく新緑に覆われる季節が訪れる。木屋平は春夏秋冬、私たちに季節の便りを届けてくれる剣の賜物であろう。-平成16年12月-

  徳島県板野町の田園(写真左)や香川県の塩江、三木、飯山辺りで、少し規模は小さいがワラを円錐形に束ねたカヤグロと同じつくりのものを見かけることがある。土地の人はこれを「ワラグロ」といっている。カヤとワラとの違いはあるがこの種のものはグロというものであるらしい。雪の降り始めのころ、刈り取りが終わった冷え冷えとした平野にワラグロが立つ風景はなぜか淋しさをともなうものである。これもまた明るい春の予兆と考えればよいであろう。
 過日、備後(広島県)の山地を歩いていてカヤグロを見かけることがあった。彼の地でもやっぱりカヤグロと呼んでいる。瀬戸内海は、徳島と広島の山村文化に溝をつくらなかったのである。

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