わらぐろの風景−西予市宇和町−
  肱川の上流に宇和盆地が所在する。古代から稲作で栄えた当地は地理的にも北部九州に近く、銅鉾文化圏に属しまるできのうにも鋳出したようなみごとな銅矛の出土をみており、また盆地を囲む山腹山上には古墳が散在するなど弥生・古墳期から稲作の代表的な文化圏をつくりだし、四方にその文化的影響力を発揮し続けてきたことであろう。そうした稲の生産力を支える美しい水田は今も宇和の象徴であり、海岸線に住む人々の羨望の対象である。宇和には米がある。宇和盆地は実に広く美しい。
 稲わらは牛の飼料や米俵、こも、むしろ、畳などの部材として使用され、腐っても堆肥として使用され余すところのない米の副産物だった。稲わらはわらぐろ(写真)などで乾燥させた。わらぐろは地方によりワラタカ、スズキなど呼称は異なるが、一般的に四国4県や中国地方では「わらぐろ」と呼称されるようである。この種のものをカヤで葺くとカヤグロ(徳島県剣地方など)と呼ぶ。
 宇和盆地はまたしばしば降雪がみられるところ。三瓶など市内の海岸部とは標高差分(2、3度)だけ寒いが、寒々とした平野にわらぐろが立つ風景もまた宇和盆地らしくてよいものだ。米博物館、開明学校などに宇和地方の稲作を偲ぶよい資料が展示されている。 −平成23年1月−
明日香川(スズキの風景)(奈良) 備後のカヤグロ(広島) ワラタカの風景(佐賀) 刈干の風景(宮崎) カヤグロの風景(徳島)