九州絶佳選
佐賀
虹ノ松原−唐津市−
 
大陸の冷気をはらんだ季節風が容赦なく松林に吹きつける。荒々しい風は松林に阻まれやがてかすかな松籟を生む。その音色は遠い昔の楽人が奏でる単調な琴の旋律に似る。松籟は潮騒にとけ、浜辺のかなた
に末盧びとの幻影をみるようである。
 玄海灘の湾奥で弓状に太く長く伸びる松林は歴史の語り部。樹齢数百年を超える老樹、いやその木のまたはるか昔の木々のぬくもりが、玄海灘に吹きつける冷気を癒し、背後の人々の生活を守り続け、時に白砂の松林は鎮西の居城名護屋に向かう諸将に安らぎをプレゼントしたことであろう。
 虹ノ松原は、江戸期に植栽された防風林とされている。しかし点在する松の古木群は、そのはるか昔からこの砂浜の主であったことを主張しているかのようにみえる。
 松原の延長は4キロメートル余。幅が500メートルほどもある樹林の中を県道が通る。虹ノ松原は、松くい虫の被害もほとんど見られない美しい松林。山頭火が歩き、哀浪が薄紅色した貝殻を愛でたところ。野外活動施設や沿道に食堂などの施設もある。初夏にはハマヒルガオガが浜で可憐な花をつけ、潮干狩りを楽しむ市民で賑わう。