奈良
三輪山−桜井市三輪−
三輪山を しかも隠すか 雲だにも こころあらなも 隠さふべしや  
                  < 万葉集  額田王 >
 初瀬の谷の北に三輪山が鎮座する。標高467メートル。なだらかで円錐形の美しい山は三諸の神奈備。西麓の大神神社の神体山として崇められ、杉桧を交えた赤松の純林に覆われた山。神社の創は崇神6年と伝えられるが、三輪山はたぶん大和の国が生まれたころから原始的な民間信仰の中心であり続けてきたことであろう。
 天智天皇の6(667)年、都が飛鳥から近江に遷ったころ、山裾の道を行きつつふり返りふり返りしてこの懐かしい山を目に焼き付けた大宮人は額田王ひとりではなかったであろう。大和への郷愁を長歌に託し謳いあげる額田王。冒書の歌はその反歌である。三輪山に凝縮された飛鳥への想いは奈良山を越えるころ極点に達する。その近江の大津京も5年余の命脈を保ちえたものの壬申の乱を経て、都は再び飛鳥に戻る。近江の海もまた郷愁の海であり続けたのである−平成19年−