滋賀
唐崎あたりの風景−大津市−
  楽浪さざなみの国つ御神のうらさびて荒れたるみやこ見れば悲しも 
                     <万葉集 高市黒人>
 志賀の大わだにエリ(→型に組まれた定置の漁具)が立っている。近江朝の滅亡から30年、いや20年の歳月を経るまでもなく出入の船で賑わった大わだは、葦が繁り、その先にはエリの竹杭が立つ荒都を映していたに違いない。黒人は万感の思いをこめて歌う。いつの世も、時の移ろいは悲しいものであるにせよ、あえてその現場に立つさみしさは耐え難いものだ。近江遷都から5年4ヶ月、骨肉相食む壬申の乱は再び都を飛鳥に戻すことになった。官人ならずとも、哀感を禁じえない戦いであったがゆえに悲しさは一層募るのである。−平成20年−