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奈良 |
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地蔵盆−奈良市十輪院町− |
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奈良市内に通称なら町という街区がある。古刹や古い町家が建ち並ぶところ。このまちに地蔵菩薩を本尊とする十輪院(写真上)ともう一つ福智院という古刹がある。いずれも7月23日に地蔵盆が行われる。
福智院の本尊は総高6.7メートルに及ぶ木造地蔵菩薩坐像。十輪院の地蔵菩薩は高さ2.3メートルの花崗岩の厨子(石仏龕と呼ぶ)で覆われた石造地蔵菩薩。本堂は本尊の覆屋とも言うべきもので木造寄棟本瓦葺、鎌倉時代の建立という。軒が低く、前面に蔀戸を建て当時の貴神の住宅風の造りで美しいものだ。石仏龕に祀られた地蔵菩薩は宝珠、錫杖を持たず、造像の古風をしめす平安時代中期ころの作。石仏龕の左右に浮彫の釈迦如来と弥勒菩薩を配して石仏龕は意匠に富み珍しい作りである。
炎天燃えるような日が続く7月23日、夕刻から十輪院で地蔵盆が行われた。5人の仏僧による読経の後、住持の法話、地蔵菩薩等の拝観が許された。本堂は独特の音響効果があり、読経は一層荘厳なイメージがあるが、和風ミュージカルを聞いているような心地よさもある。
この日、寺は終日、地元の人や遠方からの参詣者で賑わった。住持は学僧、慈善事業家として名がある仏道者。おごらず飾らず、説法にも定評がある。
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なつかしき十輪院は青き鳥 子等のたずぬる老人の庭 <鴎外>
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森鴎外はなつかしき十輪院と詠った。十輪院の庭に佇む老人は、冥界に旅立った子や孫の供養に訪れた親や祖父母であるに違いない。お地蔵さんは劣弱者、特に早世した子供が地獄へ落ちることを救済する菩薩として信仰されてきた。そうした子らに極楽往生を祈り続ける老人もまた、永遠に青い鳥であり続けるのだ。
お地蔵さんの縁日は中国の五代(10世紀)の書物・虚堂録に7月24日としるされている。本邦でも地蔵菩薩像霊験記(986年)や今昔物語において7月24日に祭が行われていたことがわかる。さらに地蔵信仰が道祖神信仰や勢至菩薩などの出現を待つ二十三夜待ちなどと習合し、宵の23日から地蔵盆を行うところもある。
奈良、京都、大阪など関西では道の辻々に祀られた地蔵堂の前で屋台を組み、餅、胡瓜、菓子などの供え物をして地蔵盆が行われる。京都では月遅れの23〜24日(8月)、奈良市内ではたいがい7月に地蔵盆が行われる。十輪院など地蔵菩薩を本尊とする寺院や街角の地蔵堂、祠などが地蔵盆の会場。
お地蔵さんは老人や子供など弱者救済の菩薩として街の辻々で或いは遍路道の路傍でも庶民の信仰を得て佇んでおられる。お地蔵さんはそれほど身近な存在であり続けている。 −平成22年7月− |
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