京都
菩提樹(室尾谷山観音寺)−福知山市大江町南山−
菩提の花きょうはあすかと観音寺 <閑山>
無数の花をつけた菩提樹(室尾谷山観音寺)
 丹後の丹波境に室尾谷(むろだに)というところがある。山脈をなす鬼ヶ城、烏ヶ岳の東側の峡谷沿いに開け、その最上流部に観音寺という古刹がある。門前の峠を越えると丹波(福知山市山野口)。
 寺は和銅7(714)年、行基菩薩の開基と伝え、真言宗。お四国さんのミニ巡拝霊場があり、三丹に聞こえた寺だ。峡谷沿いに下ると寺の北3キロ余のところに由良川がある。
 仁王門をくぐり、右手に谷川、左手に「お四国さん」をみて急坂を登っていくと入母屋造りの大きな堂宇(本堂)に行き着く。本尊は十一面観音。33年目毎に開扉供養が行われる秘仏。大和室生寺の本尊の余木で作ったという寺伝がある。室生寺は後年の山岳密教寺院のさきがけとも推され、かつ当山が大和室生寺との縁を伝えているところから、観音寺は室生寺同様の山岳密教寺院として広く廻国の修験者などが往来する寺であったと推される。仁王門脇の道路を隔て、文政3年記名の苔むした四国・西国・秩父・坂東廻国供養塔がある。三丹の修験者が詣でる寺だったのだろう。
 さて、この本堂の左手に菩提樹の木がある。目通し約2メートル。一抱え余りある大木で、信州菩提樹(写真上)。樹齢150年と札が掛けてある。
 6月中旬、寺に参詣した日、菩提樹は包の先から長い枝が分枝し、無数の小さなつぼみ(写真下@)をつけている。同月末のころ再び寺を訪れると、人気のない本堂の周りに甘いほのかな香りが漂い、菩提樹にミツバチが群がり蝶が舞っている。枝先に淡黄色の無数の花が咲き(写真下A)、降りしきる花が樹下を黄色く染めている。なんとも感動的な風景だった。
 釈迦は菩提樹(クワ科)の下で悟りを開いた。仏教が中国に伝来しこの聖木の植樹も試みられたであろう。しかし、温帯の中国では育たず印度菩提樹に似たシナノキ科の菩提樹をそれに替え寺院に植えられた。西洋菩提樹に似た木であるが、印度菩提樹とは異なる。日本へは建仁寺を開いた栄西が中国から持ち帰ったといわれるがはっきりしない。もともと日本に自生しない樹木で主として寺院に植えられたから、一般には普及せず今も珍しい部類の樹木である。
 観音寺の菩提樹が信州菩提樹と呼ばれる由縁はよくわからない。信州から持ち帰ったから信州州菩提樹なのか、信州菩提樹という品種なのか、これもよくわからない。
 神道において神霊の依代を神木と考えるように、古代インド仏教では釈迦のほか六仏(釈迦以前の仏)にもそれぞれ聖樹が当てられる。そうすると釈迦以外の六仏の聖樹を求める仏徒もいたことだろうから、信州菩提樹、○○菩提樹等々と、菩提樹に持ち帰った土地名を付しそれにおきかえた可能性もハナから否定もできないだろう。観音寺は修験者が往来した寺とみられるから、信州から持ち帰った菩提樹かもしれない。日本の各地に土地名を付した菩提樹が存在するので、六仏のいずれか特定できないがそのような信仰上の考え方もあったのかもしれない。
 それにしても菩提樹に群れるハチやチョウが多い。しとしとと小雨が降る梅雨空に、釈迦の慈悲を乞いハチやチョウたちもまた菩提樹の葉陰の花に集うのだろう。−平成24年6月−
菩提樹の花@(室尾谷山観音寺)
菩提樹の花A(室尾谷山観音寺)