京都
県まつり(あがたまつり)−宇治市−
 闇夜の奇祭。宇治市の県(あがた)神社で6月5日から6日未明にかけ県まつりが行われ、市内は日中から10万人余の人出で賑わった。祭りのクライマックスは灯が落ちた漆黒の境内で行われる梵天神輿の練り込み。太い竹串(梵天棹)に直径2メートルほどの御幣を飾り、淨衣姿の氏子が串にしがみつく体で台上にある。神輿は差上げから左右に横転、さらに前後に揺さぶられ、次にぶん回しと呼ばれるスピンがかかった荒業に耐える。約1時間半にわたる神事や練り込みが行われ祭りは終わる。
 梵天はボンテン或いはボンデンと呼ばれ、厚手の奉書紙を御幣につくり、竹棹に結わえたもの。それは神道では神霊の依代(ミテグラ)であり、密教では仏教の守護神。神事相撲の勝者にボンテンを与える風が宇和島など全国にある。
 宇治の県祭は、道饗(みちあえ)祭の性格があるといわれる。宇治は都の入口の一つであるから、疫神その他の悪霊の侵入防禦を祈願する道饗祭であるという説である。昔は、悪霊が怨霊となり疫病などをもたらすと信じられていたから、県祭に散米とみられる神事(写真下)が伴うのもそうした祭の起源に由来しているのではないか。転じて、県祭は安産、無病息災などの信仰につながり、また暗闇の祭という特殊性から推して、居籠祭の要素も加えている。いずれにせよ、この祭には多様な信仰が交錯しているように思われ、都人にとって重要であったがため、祭は今日まで続いているのだろう。
 県祭の3日後の8日には宇治祭が行われる。午前中に県神社で大幣神事が行われ、午後からは宇神神社下社で還幸祭が行われる。この大幣神事も奇抜な神事形態を宿しているが、やはり道饗祭系統の神事ではないかと思われる。氏子は宇治橋通りとあがた通りに挟まれた三角地域に住む氏子の厄病退散の祈願であるという。大幣神事もまた奇祭である。−平成22年6月−