ノジギクの咲くころ−西予市−

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  11月に入り気温が下がり、日の暮れが早くなりはじめると、宇和海の海岸ばたでノジギクが咲きはじめる。八幡浜から真穴、周木、三瓶、二本松、皆江、下泊・・・とひっそりと咲き、しかし振り向く人もいない。
 ノジギクは明治17年、高知県川口村で牧野富太郎博士によって発見された花。家菊の原種と言われる花。
 牧野博士のノジギクへの思い入れはよほど強かったようであり、新改訂学生版牧野日本植物図鑑(1974年3月25日初版)の巻頭を飾っている。
 ノジギクは西日本の海岸でごく普通に見られるきく科の植物。兵庫県がその東限(かつ北限)のようであるが、経ヶ岬(京都府京丹後市)においてもよく似たものが咲いており、ノジギク分布の解明が求められよう。
 ノジギクにも相当、個体差がある。永く岩場の懸崖に咲いているものは花も葉も小さく、全体に矮化して見える。舌状花の長短や花や葉の形がやや異なるものもある。道路や海岸端などで咲くものは花も葉も大きく頑丈、葉が分厚く葉の緑も濃い。
 宇和海においてもノジギクは海岸一帯でごく普通に見られる。日本では西宇和郡、南宇和郡辺りが一番、ノジギクが濃密な地域であろう。三瓶町の町花になっていて、この地方の晩秋を代表する花である。
 一般に、南予以北の海岸で咲くノジギクはセトウチノジギクと呼ばれる。葉の外周の白の縁取りが明瞭でなく、葉裏の毛も白さが目立たない。これに対し、土佐境の愛南町辺りから南ではアシズリノジギクが分布する。葉の縁がラインを引いたように白く葉裏や茎の毛が白く、全体に白っぽく銀白色。牧野博士が発見されたノジギクはこのアシズリノジギクではないかと思う。
 愛南町においてはこの両ノジギクが混在する。同町の高茂半島の外泊以南になると圧倒的にアシズリノジギクが多く、セトウチノジギクを完全に凌駕する。
 11月中旬、南予観光がシーズンオフになるころ、岬一帯にアシズリノジギクが咲く。断崖の斜面に咲く白く清楚な花は伊予の絶唱であろう。晩秋の宇和海を白く染めて美しい。 
 毎年11月になると、国道378号〜56号線を往きノジギクを鑑賞していたが、加齢とともにそれもままならず今年はとうとう友人の畑からいただいたノジギク(セトウチノジギク)を鉢植えにし、この清楚な花を愛でている。鉢の花は、11月に入りポツリ、ポツリと咲きはじめ、中旬のころ満開になった。舌状花の白がなんとも美しい。-平成25年11月-
              参考 : ノジギク