屋島−高松市−
■  瀬戸内海に突き出た屋島は、標高290メートル余の半島である。かつて屋島の南側は、浅瀬の海だ屋島った。埋め立てが進み、半島の付け根を流れる相引川(写真右)がかろうじて「屋島」が「島」であることを主張する。 東西2キロ、南北5キロの屋島の頂上は概して平坦で、遠目には屋根のように見える。典型的なメサ状溶岩台地。テーブル・マウンティンである。南アフリカの喜望峰にみられるテーブル・マウンティンなどとともに、屋島は貴重な地球の遺産。テーブル周りは切り立った断崖。ところどころに設けられた展望所からの景観は秀逸である。
■  屋島はまた、歴史の盛衰に彩られた島である。白村江の戦いに敗れ、朝鮮半島から撤退した7世紀には国防上の拠点として屋島城が築かれ、土塁にそのよすがをとどめている。中世には、平氏に奉じられた安徳帝が1年有余、屋島の六万寺に行在所を設け、朝議も執り行なわれた屋島。源平合戦の戦場となり義経の弓流しや那須与一の扇の的など幾多の逸話が伝えられる。
源平はいさや波より現はるる扇の船のあれかし屋島 <与謝野晶子>
■  寿永4(1185)年、源平合戦で源義経の陸からの奇襲に驚いた平氏は天険の屋島を捨て、安徳帝や諸将は船に乗り海上に浮いた。戦いははじめ檀ノ浦など屋島周りの浅海で展開され、のち平氏は船を陸につけ戦ったが、平宗盛のまずい指揮も重なって総崩れとなった。義経の手勢は僅か150余騎だった。讃岐の豪族も次第に源氏になびき平家はもはや義経の敵ではなく、志度に落ちる平氏の動きも覚られ義経が率いる80余騎に破られ、安徳帝は長門の壇ノ浦に落ち、滅亡の道をたどるのである。一門のある者は海や渕に身を躍らせ、ある者は四国山地の祖谷山切山に、或いは越中五箇山などの秘境に身を寄せたと伝えられる。源平戦を制し平氏によって握られていた内海の制海権を手中にした源氏。義経の戦略は武門の教訓となりまた、平氏の最期が余りにも哀れであるが故に平家物語や吾妻鏡、源平合戦記などによって増幅されながら、栄枯盛衰の人の世の哀れをとどめる物語として人々に読まれ、語り継がれてきた。安徳帝が南海の島に落ちのびたという伝承なども伝えられる。
■  屋島の眼下に、「那須与一の扇の的」にまつわる祈り岩や駒立岩」、「義経の弓流しの跡」、「菊王丸の墓」、「佐藤継信戦死の跡(射落畠)」、「舟隠し」などの古跡がある。
 戦場となった浅海も干拓が進み住宅地となっていて所在が分かり難いが、ゆっくりと市街や田園を訪ね歩くのもいいものである。義経の弓流しの跡近くに洲崎寺がある。同寺の境内に、源平合戦の古跡を岩と築山で表現したジオラマが設けてある。誠によくできていて、檀ノ浦の戦が俯瞰できるようになっている。境内の塀には、石板に源平戦の絵図と解説が刻まれている。牟礼は名石の産地。随分立派なレリーフがはめ込まれ、平家物語の名場面が生き生きと描写されている。当寺にはまた、江戸期に四国遍路指南を著した遍路の父・真信法師の墓所がある。
平家ゆえ名のあわれなるここちして遍路と入りし屋島寺かな <与謝野晶子>
屋島寺■  屋島は信仰の山の姿を残すところ。鑑真和上や弘法大師など日本の仏教史を飾る人々が足跡を残した山である。頂上に、弘法大師縁の四国88箇寺第84番札所・屋島寺(写真左)がある。麓には、冠獄神社と称され、讃岐東照宮といわれる屋島神社(写真右)がある。
  屋島周りの切り立った「獄」のありさまは鹿児島県阿久根市に聳える「冠獄」と形状はむろんその麓に鉄国寺や冠獄神社などの寺社が存在するところまで酷似している。獄と山岳信仰に相関するところがある。
公渕森林公園−高松市−
 阿讃山脈の山塊が北に延び讃岐平野に交わるなだらかな丘陵地帯で、幾つものため池が山襞の水を湛え平野を潤している。高松市南部にあるるこれらのため池のうち、公渕池、神内池、城池、松尾池をまとめて「四箇池」という。四箇池は、生駒藩、松平藩の二代にわたり築造されたため池であるが、公渕池が一番大きく堤高は約27b、貯水量は178万5千立法bにもなる。四箇池の水は一部川添浄水場へ送水され、高松市民の上水として利用されている。
 公渕池は屋島の南方、15キロメートルほどのところにある。源平合戦で敗走した平家の公達が身を躍らせた渕。春日川上流の溜まりのような池(渕)であった。渕に映る直衣姿の公達や姫御前の姿に誘われて公達は身を躍らせたと伝えられる。平家は散りぎわもまたみやびである。
 近年、公渕池や城池周りは公園化され、憩いの家や芝生広場、菖蒲園、薬草園、学習展示館などが整備され、周年アウトドアーなどを楽しむ市民で賑わっている。池周りの森は、四季折々の顔を見せる。遊歩道を歩くと、ふた抱えほどもあるアカマツやカシの常緑樹が、秋には紅葉したケヤキが、私たちを清々しい世界に誘ってくれる。恒例の秋の菊花展などもよい催しである.。−平成16年10月-