野池の蝶(チョウトンボ)−東広島市豊栄町−
 灌漑が始まり野池の水が減少し始めると、ヤゴからかえったトンボが池端からつかず離れず、ひらひら・・・・と舞いはじめ、黄色の花をつけたコウホネ(水草)のまわりに小さな影をおとしている。
 チョウのような羽根をもち、太陽光線に反射して瑠璃色にも見えるチョウトンボ。小さくて美しいトンボである。
 透明になった羽根の先端部に黒色の斑が入っている。指紋のようにみな文様が異なるのは面白いものだ。
 チョウトンボは近年、都市部ではほとんど見ることができなくなった。−平成18年8月−
ミモザの咲くころ−広島市南区似島町−
   
 広島市の宇品港からフェリーで20分、似島という周囲16キロほどの島がある。島の北部に標高278メートルの安芸小富士がそびえ、登山を楽しむ人も多い島である。
 登山道は似島学園と似島港家下から登る2方向がよく知られている。歩きやすさや眺望のよさから似島学園側から登る人が多いのであるが、早春の頃は家下から登るのもよいものだ。メジロやキビタキなど野鳥も多く、登山道周辺で咲くミモザの花が目を楽しませてくれる。
 ミモザはオーストラリア原産、マメ科アカシア属のフサアカシアの別称。日本ではあまり見かけない樹木である。春先にコンペイトウのような球状のつぼみをつけ、開花すると黄色の綿状の花を咲かせる。樹皮はあおっぽくみえる。銀の粉を噴いたような同種のアカシアもある。それらのイメージがなんとなく日本人の嗜好にあいにくく、アカシアは日本ではあまり見かけることのない樹木である。ミモザは広島市内では縮景園に2本植わっているくらいではないかと思う。花期は2月の下旬から3月。
 似島のミモザは登山道周辺に数十本はあるだろう。みな樹皮があおっぽくみえるフサアカシアである。幼木も多く増殖も止まってはいない。登山道を覆うようにして咲くミモザの黄色のフィルターの花道をゆくのも心地よいものである。3月上旬ころには満開になるだろう。
 それにしてもミモザの群落がなぜ似島でみられるのだろうか。一抱えほどの古木も見られ、移植され半世紀ほどにもなるであろう。しかし、大木はことごとく倒れるか半倒木の状態。香川県などでは、海岸端の崖地の崩壊予防のためハリエンジュが移入され、増殖している。しかし、同じ移入樹木であってもミモザは根が弱く倒壊しやすい樹木。まして風化が進んだ花崗岩土質の似島には向かない樹木である。登山道の並木として植えられたものとは思われない。似島の家下から似島臨海少年自然の家の上部にかけ安芸小富士の南西斜面一帯に耕作畑の遺址が認められ、ミモザは販売用の園芸樹木として畑で栽培されていたものが、自然増殖したのかもしれない。島でその経緯を知る人に会わなかったが、ミモザの花陰に沖行く船がうつろう瀬戸内の風景は、のんびりとしてよいものである。−平成19年2月− 
  セツブンソウ−庄原市総領町−
セツブンソウ  吾妻山のコアジサイ、臥竜山のアケボノソウ、久井のキキョウ、道後山のリンドウ・・・。総領のセツブンソウ(写真左)も忘れられない広島の野草の一つだ。田総川に沿うように山裾で咲く、親指の爪ほどの花はキンポウゲ科の多年草。2月の節分の頃から山陰でうつむきかげんで咲く可憐な花である。純白のがくが数本の薄紫色の花弁を包む。石の多い山裾で群生し、春を告げる花だ。公開自生地が数箇所ある。
 10年ほど前から町の有志によってセツブンソウの保存活動が進められ、実生による栽培技術が確立されたという。
 絶滅に瀕していたこの可憐な妖精は、今、花守りと呼ぶボランティアガイドを得て、備後の早春にまばゆいばかりの光りを放っている。 
 R432号線沿いの道の駅:リストアステーションで開花期間中、節分草祭(平成19年度:2.17〜3.18)が開催されているので、セツブンソウなど総領町の山野草探訪の入口として訪ねられるとよい。近くにセツブンソウや福寿草の移植地もある。−平成19年2月−