吉野川南岸の平野で、阿波の浮き屋根が青空によく映えている。石井町藍畑に所在する「田中家」は、代々藍商を営んだ商家。藍玉、青藍、すくもを商う商家だった。
青石などを積み上げた高い石垣の上で、主屋の棟にガップリを渡した四方寄せ棟の茅葺屋根に、広く大きな本瓦葺の下屋根が回してある。この絶妙のバランスから、茅葺の上屋が浮かんで見える。遠目にも本当に美しいものである。
主屋、藍寝床など11棟の建物の配置のバランスも大変よい。田中家の広い敷地と多くの建物を眺めていると、藍商がいわば装置産業であったことがよくわかる。その筆頭は藍寝床である。低層、重厚な独特の建物が並ぶ。
田中家の近くに武智家があり、同家も藍の商家である。藍寝床が残っている。
木綿の染料に使われた阿波藍は、その栽培からすくも、藍玉などの生産工程に及ぶまで明治期に新歩の極点に達し、世界に比肩するものがなかった。しかし、インド藍や化学合成染料に押され、明治30年以降は次第に衰退の道をたどっている。-平成16年11月- |