塔のある風景(国分寺)−総社市上林−
 総社、倉敷、岡山を結ぶ岡山平野の三角地帯は古くから栄えた吉備の枢要部。高梁川の左岸に開け、沃土に被われたところ。造山古墳、作山古墳など全国でも屈指の巨大古墳が古代の吉備王国ともいうべき権力の在り処を告げる。
 平野に点在する孤峰は、吉備国の王墓が営まれ、寺が建ち、朝な名なに仰ぎ見る五重塔は備中の象徴であった。
 天平13(741)年、聖武天皇の勅願によって建立された備中国分寺。金堂、講堂、塔など大伽藍を備えた寺だった。南北朝のころから荒廃していた国分寺に、34メートル余の五重塔が再建されたのは弘化元(1844)年のころといわれる。
 塔は、遠くから眺めるといっそう美しさを増すものだ。塔には乾いたイメージが伴う。晴れの国のイメージともよくマッチして、備中の田園にこの塔ほどよく似合うモニュメントはほかにはあるまい。かつては国衙の中心部でそびえる塔は大寺の象徴だった。備中国分寺の五重塔はいま、ほろびの哀愁をたたえて美しい姿で立っている。塔周りでは菜の花が咲いている。備中の春がここにある。−平成19年2月−

参考:古塔の思い出