向上寺三重塔−尾道市瀬戸田町(生口島)−
向上寺の三重塔 生口島はその東に因島、西に大三島がみえる人口1万人ほどの島。島は芸予諸島の要所にあって古くから海運で栄えたところだ。島の北西に高根島という島がある。至近の両島の海域が瀬戸田水道。近年、高根島との間に橋が架かり、高根島往来も楽になった。
 瀬戸田水道にフェリーの発着場がある。しまなみ海道が開通した今日でも、フェリーは島民や観光客の重要な足。広島の三原、愛媛の今治・大三島方面への発着便がある。
 フェリー乗り場の近くに商店街があり、土産物屋が建ち並ぶ。通りは耕三寺まで続く島のメインストリートである。少し路地に入ると古い町並みなどが残っていて懐かしさも同居する。生口島には、光明坊、向上寺の古刹があり、この島の文化的伝統の深みを感じさせる。
  画家の平山郁夫氏は生口島の出身。島内の観光ポイントに氏のスケッチ画(焼き付け)が展示されているのでご覧になるとよい。スケッチの魅力を感じる人も多いはず。近年、平山郁夫美術館ができ、また生口島出身で実業家から出家得度して仏門に入った金本耕三が母の供養のため発願した一大伽藍・耕三寺を建立している。真宗寺院である。耕三寺はまた貴重な仏像、絵画等を多数保有し、公開する寺である。入り口の楼門と回廊は法隆寺西院の中門と廻廊、そして室生寺の五重塔、階段を上がって左右に四天王寺金堂、日野法界寺本堂、その奥に日光東照宮の陽明門(本堂の楼門)や宇治平等院の鳳凰堂(本堂)などを模した十数棟の伽藍に彩色が施されている。参拝者が絶えない島の名所である。
瀬戸田町(生口島)の街並み フェリーが瀬戸田港に近づくと、港の東方の山腹に向上寺の三重塔が見える。寺は臨済宗仏通寺の開祖愚中周久の開基である。いまは曹洞宗に改まっている。裏山の参道を行くと山頂に展望台があって、展望台のやや下方に三重塔がみえる。永享10年(1442年)、島の地頭生口氏を檀越として建立されたもので、塔の高さは13メートル、本瓦葺き。三間三面の三重塔で禅宗様の姿のよい建物である。展望台近くに建てられた平山画伯のスケッチ(焼き付け)は、三重塔の甍をのぞむちょうどそのあたりから描いたもの(写真上)。瀬戸内海を見下ろすこの位置にあってこそ塔は活きる。伽藍の配置にも工夫があったのだろう。(参照:瑠璃光寺五重塔)−平成18年8月−