九州絶佳選
熊本
肥後万世の森(民家村)−菊水町清原−
 菊地川の左岸、清原台に万世の森がある。古墳や古民家等が整備された広い公園は、樹木も多く周年、県民が訪れる保健保養の森である。この公園が菊地川に接する北斜面に民家村がある。古民家とそのほか木工・陶芸施設や歴史民俗資料館等が整備されている。古民家は江戸期のものが数棟展示されているが、菊水町ならびに近在の集落から移築されたものである。棟がL字形をした鈎造りの民家や熊本地方特有の二棟式の棟を持つ茅葺民家などがある。日本の茅葺民家は昭和40年代の高度成長期を経てほとんど消滅した。現在、古民家がまとまって相当程度展示されているところは、九州では福岡県津屋崎町の民家村自然公苑と当所くらいのものであろう。
 現在、日本の木造家屋は、建築後30〜50年で建て替えが行なわれている。かつて農村でよく見かけた茅葺住宅は二、三百年使われることはザラだった。1代(約30年間前後)に1回、屋根の葺き替えが当主の義務のようになっていて、半永久的に住みつづけることが家屋使用の前提になっていた。家の構造、部材なども頑丈であり、地域地域の気候や葬祭の習俗等を考慮した究極の住みよさ、使いよさが追求されているのである。四国高松の四国村の下木家などの民家をみているとつくづくそのように感じる
 地域や集落の各戸の家屋はいわば集落の社会資本の一部をなしていた。イギリス、フランスなど欧州各国においては、いまなお民家やアパート、ホテルなども100年以上使われているものはざらにある。多少不便であってもそうした伝統的な建築にこだわり続けている。私たち日本人は、戦後、家屋を1代限りのいわば消耗品として考えるようになっている。先の大戦を契機にして、家族制度の崩壊や地域の社会構造の変化、インフレの進行等が複雑に絡みあっているのだろう。筑後万世の森で、民家に親しみながら園内を散策するのもまたよいものである。 -平成17年12月-