奈良
宮滝 象の小川−吉野郡吉野町宮滝−
我が命も 常にあらぬか 昔見し さきの小川を 行きて見むため      <万葉集331 大伴旅人>
我が行きは ひさにはあらじ いめのわだ 瀬にはならずて 渕にありこそ  <万葉集335 大伴旅人> 
 大伴旅人は、太宰帥在任中、酒や遊興などをテーマにした連作を試みている。巻第三331から335に5首の連作がある。望郷の思いを歌に託している。5首中2首は、吉野の宮滝の象の小川をモチーフにしたものだ。
 宮滝は岩礁が露出し、甌穴をたくわえた石や奇岩が連続する景勝地。川の右岸に行宮が営まれ、持統天皇は、30回余も宮滝行を繰り返し、そのたび宮滝の景観に癒されたことであろう。
 旅人が歌った象の小川は離宮と反対側の象山から流れ出る細流。谷川は宮滝の淵に払出し、白い糸を引き、小滝(写真上)を成している。
 旅人は、象の小川を行って見るため、命を永らえることを願い、また昔そうであったように象の小川の淵が浅瀬にならず、昔のままであってくれ、とうたうのである。それほどまでに旅人の脳裏に刻まれた宮滝は、人を飽きさせない景勝地であったのだろう。以来、千年余、宮滝は変わることなく私たちを魅了し続けている。