奈良
金魚のこと−大和郡山市−
     お針子の呼ぶ戸に遠し金魚売  <虚子>     
     芝居来るというも久し二番草  <東洋城>
 金魚の産地・大和郡山市で毎年8月、「全国金魚すくい選手権大会」が行われている。今年で14回目を迎える。会場は、全国から集合した金魚すくいの名人たちではちきれんばかりだ。戦場さながら、熱気に包まれている。
 金魚すくいの制限時間は三分。ポイの上で金魚が撥ね二匹、三匹とアルミ容器にすべっていく。名人級にもなると20匹はすくうという。
 会場の入口の傍らで水槽におさまったランチュウ、オランダシシガシラ、ワキン、リュウキンなどが目にも鮮やかにゆらゆらと泳いでいる(写真左)。野外に出ると初秋の空に入道雲が浮いている。
  
金魚すくい全国
大会(大和郡山
市)
夏祭りの
夜店風景
 
 入梅前に田植が済むとしばしの農閑期。農村の姑と若嫁がそれぞれ第一婦人会、第二婦人会を組織して村のお堂などに手作りのご馳走を持ち寄り骨休めをする風があった。そして土用をはさみ一番草、二番草・・・と都合3回、田の草とりが済むと中干し。まもなく秋の収穫がはじまり、新米を供出すると男も女も本当の大休み。秋祭りやその他の楽しみがあった。それは戦前、戦後間もない頃の農村の一般的な営みであった。当時の稲作は用排水路を区別せず上流から下流へ順次、水をもち送っていたから、米の収穫が終わり水利が途絶える秋には、水路に溜まった魚とりが農村の男たちのささやかな楽しみであった。
 井堰を止め川中を上下に区切る堰を設け、村人総出でバケツで水をかきだすと、コイ、フナ、ウナギ、ナマズなどが獲れた。たまに金魚が交じる。生かして家に持ち帰り、井戸などで飼育する農家もあった。それは金魚鉢から抜け出たものではなく、どうも自然の変異から生じたものらしく発色はよくなかった。しかし、井戸など餌を与えると何年も生きつづけ、ずいぶん大きく育つものもいた。井戸に吊るしたスイカとのコントラストも美しく、金魚には特別の感傷を禁じえない。今日でも金魚すくいは、夏祭りの定番である。浴衣姿の童らが金魚すくいに興じる姿は平和の象徴である。−平成20年8月−