明日香の飛石橋−高市郡明日香村祝戸− |
年月も いまだ経ななくに 明日香川 瀬々ゆ渡しし いわばしもなし <万葉集1126>
明日香川 明日も渡らむ いわばしの 遠き心は 思ほえぬかも<万葉集2701> |
万葉集に明日香川のイワバシ(石橋)を歌った和歌が2首ある。「イワバシ」は2種とも「石走」と記されている。いわゆる石を連ね飛び渡る単純な橋。急峻な山塊の狭間に生じた細流の橋である。出水時、石はひとたまりもなく流され、洪水と復旧の繰り返しの日々であったっことだろう。
飛鳥人は向こう岸まで4、5メートルほどの細流の河岸や沖積地に都を築いた。飛鳥は日本の礎となった最初の大都会だった。
そこはまた恋する男女や額に汗して働く人々の泣き笑いが聞こえるマチだった。小川に架かる橋は男女の逢瀬にまた、去る者に忘れ得ない郷愁の風を感じさせる橋だったに違いない。
冒頭1首目の歌は明日香で生まれ育った官人の歌であろうか。奈良へ移った都から故郷に戻ってみると、慣れ親しんだ淵瀬のイワバシはもう流されてなくなっている。寂として流れる川の流れに自身の境涯を重ね合わせて詠じたものであろうか。2種目の歌は川向こうに住む女性のところに通う男心を歌ったもの。いわば忍び恋を明快に詠った歌。イワバシは川面にささやかな淵と滝を刻んで人それぞれの人生を写して懐かしい。−平成19年10月− |
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