奈良
延喜の名鐘(栄山寺)−五条市小島町−
栄山寺梵鐘
栄山寺梵鐘
梵鐘銘
栄山寺梵鐘銘
 吉野川が瀬を滾らせやがて紀州との国境近くに至る。その少し手前に、吉野川が池水のように淀み、深い観相を見せるところがある。奇岩が対峙し、頗る風光に富み、音無川とも呼ばれる吉野川の名勝地である。河畔に栄山寺という古刹がある。役の小角の草創と伝えられ、養老2(718)年、藤原武智麿が堂宇を起こして薬師仏を安置した。薨じて武智麿は当寺に葬られた。裏山の小島山上にその墓があるという。天平年間に武智麿の子豊成によって八角円堂(写真右下)
が建立されている。栄山寺の寺容はこの頃整ったのであろう。円堂は単層屋根本瓦葺、石製露盤の宝珠を頂く。天上、柱等に当時の彩画が残る。よい建物である。
八角円堂 石灯籠

 平安の頃、鐘(写真上)は神護寺の鐘とともに名鐘の誉れが高かった。鋳造は藤原道明卿。道明は武智麿5世の孫、保蔭の第2子である。鐘ははじめ深草道澄寺にあり、いつのころか栄山寺に移された。道澄寺の衰退とともに、武智麿の墓があり、藤原南家の氏寺ともいうべき当寺に移されたのだろう。
 鐘に延喜17年の銘があり、延喜の名鐘と評された銅鐘は高さ約157センチメートル、口径89センチメートル。銘は8言8句を1面にして4面、合計8言32句からなる。末尾の銘に「一音利益無限無辺」とある。書は小野道風といわれる。弘安7(1284)年銘の石灯籠(写真右上)、奈良時代の総高3.7メートルの7層石塔婆のほか、薬師如来坐像、十二神将十二体など栄山寺の寺宝は尽きないものがある−平成20年4月−