京都
トチやカツラの棲む森−綾部市−
大トチの木 弥仙山、君尾山など丹波高原のモナドノックに悠然と聳えるトチの木。樹高30メートルにもなるトチの木は花もまた森の巨人であろう。円錐花序をなし15〜25センチメートル。葉もまた大きく、小葉は30センチにもなる。
 近年、山中に野外活動施設や遊歩道が整備され、君尾山の大トチ(写真上)の鑑賞が容易になり、高速道路の整備とも相まって名古屋・大阪・北陸方面から登山をかねて森の鑑賞に訪れる人も随分、多くなった。トチやカツラの木は春、日本海から吹き付ける湿った暖かい大気に育てられ、府下有数の巨木に育つものも少なくない。
 弥仙山登山道わきに聳えるトチの巨木に熊の爪跡などを発見すると、この山々はやっぱり深山、そっとしておきたい気持ちも脳裏をかすめる。君尾山然りである。君尾山キャンプ場近くの谷に、腰にロープを結わえ下ると、トチの巨木がある(写真下)。樹勢は盛んで尖った無数の花房が天を衝いている(写真下)。谷を越え反対側斜面を行くと桂の巨木がでんと座っている。目通し10メートルは軽く超える森の妖精だ。野草もずいぶん多い。この森はまだまだ手つかずの自然に覆われている。森は昔、村人がトチの実を拾い、薬草を採取する入会林野であったのだろう。今も村々の財産区財産であることには変わりがないようだ。
 丹波の山々は1000メートルを超えることはない。しかし山頂尾根にはブナが茂り、鬱蒼とした樹林にトチやカツラの巨木が棲み、エビネランやヤマシャクヤクが林床を埋める神秘に包まれている。丹波の貴重な自然は、探勝路の開設やスポーツ・野外レクレーション施設の設置などによって一挙に滅びる危険性が同居している。森の公園化等によるゾーニングは絶対に避けるべきである。現状より厳しい入山規制を講じるなど特段の配慮がなされてしかるべきである。失われた自然は元には戻らないのだ。鍛冶屋町(綾部市)の空山山麓のニリンソウなどの自生地然りである。里山はいつまでも地域の人々の生活の場であって欲しいものだ。−平成25年5月−