4、5月はイチリンソウ、ニリンソウ、キンポウゲの咲く季節。もっともイチリンソウ、ニリンソウは花の咲いている期間が短く1週間ほど。加えて空気が清浄かつ比較的、寒冷で風通しのよい谷川のはきだし口のようなところで咲くことが多く、よほど気に留めておかないと見過ごしてしまう。いまでは過去の花となってしまったところも多い。その軌跡はササユリと似たところがある。
京都府下においても、イチリンソウ、ニリンソウの群落を見ることのできる地域は山城の宇治田原と京都北部地域(丹後及び奥丹波)に限られるようになった。不埒な者が株を持ち帰り栽培するケースが増えている。しかし、都会地では3年もすれば花をつけなくなり枯れてしまう。生息適地を無視した悪行というべきである。
京都北部は一般にイチリンソウが濃くニリンソウの群生地は稀である。本年(2013年)、丹後の高山(702メートル)西麓で大きな群落を確認したがごく稀である。しかしまた、ニリンソウは高山のような奥山にかぎらず里山で群落をつくることもある。
綾部市の空山(351メートル)山麓の慈雲山普門院(真言宗。開創は奈良時代で綾部西国観音霊場第16番札所)辺りもそのようなところ。ニリンソウの数少ない奥丹波の生息地の一つである。生息地に縄を張り巡らせるなどの無粋なことはせずに大事に手入れされている。時折、訪れる参拝者は順礼者であろう。
普門院を訪れた日、境内地の斜面や同院のミニ西国21番辺りに大きな群落があり、見ごろだった。白い花弁がこの花の清浄さを表し、群落は普門院及び同院の下を流れる谷川沿いに散在し、普門院下の辻周辺にまで及んでいる。群落はそれほど広くはないが、花は小さく、実に清楚で美しい。稀に三輪のものもある(写真上)。
この谷川一帯は、ニリンソウの奥丹波の仙境といえる。大事にしたい生息地である。−平成25年4月−
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