京都
ああ丹後半島 ブナとイワカガミの春−京丹後市−
 丹後半島の中央部に高山(702b)という山がある。冬季は大陸から季節風が吹きつける豪雪地帯。雪に閉ざされ、孤立し、戦前・戦後に多くの村落が崩壊した。昭和40年代になると丹後半島や奥丹波全域にわたって離村が相次いだ。この高山周辺でも、内山集落の村民がすべて下山してから約10年間生活をともにした老夫婦がいたが、昭和48年ついに離村。隣村の駒倉集落の住人が離村した翌年だった。こうして、丹後の屋根にあり、寺社もあった両村落は千年の歴史に幕を下ろしたのである。
 季節は輪廻し確実に再来する。内山の人々が朝な夕なに歩いたブナ林(写真上)の新緑もその濃さを増した。山道に吹く風にも初夏を感じさせる。
 内山集落跡地に咲く福寿草が咲き終わると、時を違えず高山の険しい、岩の露出した尾根筋にイワカガミが咲きはじめる。
 イワカガミ(イワウメ科)の花は、10センチほどの茎の頂に淡紅色の花をつける。葉に光沢があり、この名の語源となっている。花茎の先に3個から6個の花が房のようにかたまって咲く。中部地方以北の深山に咲くイワウチワ(イワウメ科)は、葉の間から茎が直立し1花を横向きにつけ、数十センチに達するものもある。一見、セツブンソウに似た花。それに対し、イワカガミは小さく、めったに開ききった花を見ることもなく目立たない花である。内山、駒倉によく似合う花。傍らでコデマリの花が咲いている。
 下山途中、大学生という青年に出会った。「高山の麓の町で生まれました。連休で家に帰ったついでに登りました。」と、清々しい声で話してくれた。−平成21年5月−