京都
ハマナス−宮津市、舞鶴市−
はまなすや出羽に遊んで浜ありき 〈格堂〉
天橋立 ハマナスは東北地方や北海道で咲く花、植物園でみる花のイメージが重なって西国の者には縁遠い花との先入観がある。
 夏のころ、砂浜で紅く大きな花を咲かせ、格堂ならずとも浜に遊ぶ喜びを感じさせてくれる花である。
 はまなすの分布は、太平洋側は茨城県以北、日本海岸は島根県以北。近畿地方では日本海側の神崎海岸(舞鶴市)や天橋立(宮津市)の松林などで咲く花。花期は5月中旬ころが盛期。
 6月初旬、梅雨空が続き、天橋立の海岸は人影もまばら。文殊に参詣し、橋立と小天橋との間に架かる大天橋という回転式の橋を渡り、橋立明神に詣り、松林の小路から海岸に出ると、浜はハマボウフウ、ハマヒルガオが咲き、曇天にコマツヨイグサが小さく可憐な花を与謝の海に映している。
 松林と砂浜の境で咲く花は遅咲きのハマナス。枝に棘が密生し、花は数センチあり赤、花弁は5枚。芳香を放っているが、この浜のハマナスの盛期はすでに過ぎたようであり、群落は大方、青い偽果で埋まり花は少ない。
 ハマナスの偽果は赤く熟し甘酸っぱく、食べられる。根の皮は黄色の染料となる。偽果にちなみハマナシとも呼ばれる。その名称につき、分布が東北に偏っているところからハマナシを訛ってハマナスと呼ばれるようになったとする説もある。牧野富太郎博士はハマナシ(Rosa rugosa Thunb)を正式名(日本植物図鑑)とされている。語感的には聞きなれているせいか、ハマナスのほうがぴったりする。
 鬱陶しい季節に明るい淡紅色の花をつけ、人知れず与謝の海に咲く花もまたよいものだ。−平成21年5月−
神崎海岸