京都
真如堂の十夜念仏−京都市左京区浄土寺真如町−
    涼しさの野山に満つる念仏かな 〈去来〉
    あたふたと茶もだぶだぶと十夜なり 〈蕪村〉
 京都・東山。鈴声山の裾を白川が流れ、頂上に真如堂が建つ。11月15日、東山一帯に、がーん、がーんと単調な鉦の音が響き、去る5日から始まった十夜の満願を知らせている。
 真如堂とはもともと当寺の本堂をさしたもののようであるが、寺の正式名称は真正極楽寺という。天台宗延暦寺の末寺で本尊は阿弥陀如来。うなずきの弥陀と称せられ、開帳は年1回。はじめ比叡山の常行堂に安置されていたが永観2(984)年に藤原栓子(道長の姉。一条天皇の母。)の離宮に安置され寺の始めとなった。以来、洛内と近江を転々として元禄6(1693)年に寺は今の地の移ったという。
 境内の表門を入れば、その右に薬師堂、三重塔、地蔵堂が並び立ち、正面に洛内の天台寺院最大規模の本堂が立つ。入母屋の実に巨大な建物。十夜の法会はこの本堂で行われる。寺から聞こえていた鉦の音は、本堂内陣後方に設え一段と高い場所に陣取った鉦講中の者8名が裃姿で打ち鳴らす音。何とも有り難く聞こえ、満願の悦びを表わしているようだ。境内に張られた1本の布は縁の綱或いは善の綱とも称せられ、参詣の者は弥陀の右手に結ばれた綱を握って名号をとなえ、縁者を回向し、また己が身の逆修を果たすのである。境内では十夜粥や湯茶、おでんなどの接待があり、実ににぎやかなものだ。
 当日(11月15日)は午後2時ころから十夜の法会が始まり、境内でお練りの後、本堂で法会が営まれる。お練りは山伏、ご詠歌講、稚児、僧侶が行列をなし、紅葉が美しい境内を一巡後、本堂に入り堂宇の外縁周りを一周し、内陣に入り法要が始まる。本堂の高い階段は稚児には少し厳しい試練であるが、一段一段、懸命に這いあがる姿などは実に可愛らしいものである(写真上)。

 十夜或いは十夜念仏は、11月5日から15日までの10日間、浄土宗寺院において営まれる法要であるが、近年では3日間に短縮して行うところが多いようである。十夜の淵源はもともと当寺の阿弥陀仏が安置されていた比叡山延暦寺常行堂の法要(引声念仏)に起因するようであるが、寺伝では松平貞国が真如堂に参籠し、合計10夜念仏を修したことに始まるという。その後、鎌倉の光明寺で十夜念仏が行われ、浄土宗の寺院に広まったが、信濃の善光寺など天台宗寺院でも真言宗寺院でも十夜念仏を行う寺院がある。元禄7(1694)年、善光寺本堂再建のため同寺の阿弥陀如来を真如堂で開帳した際、向井去来が標記の句を詠んでいる。念仏を唱える声がこの山頂から東山一帯に満ちるほど多くの拝観者があったのだろう。いま真如堂は満山の楓の紅葉が美しい。−平成22年11月−