兵庫
出石の町−豊岡市出石町−
 
 辰鼓櫓
 但馬に日本海にそそぐ円山川がある。その上流に、豊岡、さらに溯ると出石(いずし)という町がある。旅する神・天日槍(あめのひぼこ)によって拓かれたところと記紀はしるす。
 藩政期に小出、松平、仙石と藩主は替ったが、街は但馬の中心として栄えた。井路整然として、通りにはムシコ窓にうだつをあげた町並みが歴史を含んで美しい。仙石政明が入封時の石高は5万8千石だった。
 市街を南北に貫く大手前通りに辰鼓櫓がそびえている。この高い鼓楼は、辰の刻に時を告げる太鼓が打ち鳴らされたところから辰鼓櫓と呼ばれ、藩士らは打ち鳴らされる太鼓を合図に有子山麓の城に登城したのである。辰鼓櫓はその役目を終え、いま時計台に変身した。高い時計台から大時計が町に時を告げている。
 町通りを歩くと、蕎麦処、皿そばと染め抜いた暖簾が風に揺れ、2軒、3軒と蕎麦屋のはしごをするそば好きもいる。出水名物のそばは宝永3(1706)年、信州上田藩から転封してきた仙石政明が伝えたものという。皿そばを楽しみにこの街を訪れる人も多い。
 出石の町をそぞろ歩けば柳行李を商う店や酒蔵、うだつの上がった商家、旅館などが軒を連ね、明治か大正時代にタイムスリップしたような気分になるものだ。歴代藩主は学問を好み藩学が勃興し、多くの藩士を育てた。沢庵和尚はこの街の人。−平成23年10月−

うだつの上がった町並み 酒蔵