兵庫
山陰の湯(湯村温泉)−美方郡新温泉町
湯村温泉(荒湯) 城崎、岩井、吉岡、浜村、松崎、東郷、三朝、皆生、玉造等々の温泉地が日本海岸に数珠つなぎに並んでいる。
 城崎温泉は志賀直哉の私小説などで知られた温泉。湯村温泉もまた夢千代日記などで知られ、それぞれの温泉がキャッチフレーズを争っている。
 東国の者でなくとも城崎が果たして何県の温泉地なのか、なかなか分かりづらいものらしい。同様に、関西の知人は湯村温泉が兵庫県だと言っても「そう?」と浮かない顔。さらに湯村市街を走る車がどうして「姫路ナンバー」であるのか、疑問が疑問を噴出させている。
 湯村温泉は神戸や有馬温泉と同じ兵庫県の温泉地である。ナンバープレートの‘姫路’は陸運当局によって画された車籍の帰属区分を指すものらしい。しかし姫路は瀬戸内海の都市、湯村は日本海。この辺りに行政の無慈悲を感じないわけではない。こんな違和感は、はやりの行政改革のとばっちりというものだろう。
 湯村温泉を山陰の湯と言えばぴったりくる。それは私たちが地名に風土を感じる証であって、感覚的には兵庫県よりも鳥取県に近い。さらに湯村が神戸市より地理的、文化的にも鳥取市に近いことを思えば、やっぱり湯村は神戸でも姫路でもない山陰の湯である。
 湯村は春来川の両岸にひらけた温泉地。春夏秋冬、湯治や海の幸を求めて訪れる人々で賑わっている。温泉は高温かつ、湯量の多さで知られている。
株湯 温泉街の中心地にモクモクと立ち昇る蒸気が‘荒湯’の所在を知らせている(写真上)。湯つぼに卵を吊るしてのんびりと温泉卵がゆであがるのを待つ者、川端の湯つぼで野菜を湯がく者等々、そこは多分、千年以上変わらぬ湯村の風景であるに違いない。
 荒湯の道向かいに‘株湯’と称する泉源があって外湯に配湯されているという。−平成25年12月−