ともしびの百貨店(丸十百貨店)−指宿市
丸十百貨店  指宿市の国道226号線の沿道に、「丸十百貨店」がある。切妻造りの側面を漆喰で塗り固め、朱線の四角に囲み「丸十百貨店」と大書されている。金物店のようであるが、向かいの郵便局の前から百貨店をながめると、ながめるほどに郷愁が湧き、味のあるよい建物である。
 建物は、その名のとおり百貨店であったに違いない。戦後しばらく、多少造りは異なっていても、食品から衣料品、雑貨などを揃えたこのような「百貨店」がどこの地方都市にもあった。昭和40年代、日本が高度成長期に入ると、ほとんどその姿は消えてしまったが、ここにはそのままの姿で「百貨店」の火が灯っている。

 日向山温泉-隼人町-
天降川 鹿児島は実に温泉が多く、温泉好きの人もまた多い。鹿児島市内だけでも温泉銭湯が約30個所、料金も300〜350円と手ごろである。朝、5時すぎには開館する銭湯もあって、朝風呂会などの温泉同好会の活動も盛んである。温泉は日常の一部となっていて、まったく改まっていく所ではではないようである。したがって、温泉地の大部分は歓楽街などには立地しておらず、街なかや渓谷に溶け込んだ山里などに所在する場合が多い。隼人町の天降川(あもりがわ)沿いに開けた「日当山温泉(ひなたやまおんせん)」もそのような温泉地の一つである。 天降川は温泉のメインストリート。日向山温泉を一番下流にして、妙見、新山、塩浸、安楽温泉等々と数珠つなぎに上流へと連なる。
 日向山温泉には十数軒の温泉旅館がある。道路沿いあるいは住宅地の中などに散在する。どこも湯量は豊富。なかなかよい温泉地である。温泉地をゆったりと流れる天降川を眺めながら、湯治や家族、グループ旅行などにもいい。天降川の美しい観望がよい効果を与えてくれるだろう。
 西郷さんはよほど温泉好きであったらしく、その足跡と逸話が各地に残る。日当山温泉も例外ではなく、西郷さんの人となりを伝える逸話が残る。南州公逸話集から紹介しておきたい。
 “(西郷さんが混浴の湯壷で入浴していたところ)西郷さんは立派な色白い肥えた体躯に断髪頭だから、坊さんに違いないと思ったバアさんは、「きれいな坊さんじゃ」と褒めた上に、無理やり話しかけて、「寺を持っちょいやっとな」(寺を持っていらっしゃるのですか)と尋ねたので、西郷さんも返事せずにはおられず、「桜島を持っとるが」とニッコリ愛嬌たっぷりお答えになった。”とある。薩摩の人々の西郷さんへの敬愛は、この逸話から読みとれるように、誰に対しても変わることのない立派な人格に対する支持であろう。維新に果敢に立ち向かった肝っ魂の据わった無二の大人物であることを一番よく知っているのも薩摩の人々である。