鹿児島は実に温泉が多く、温泉好きの人もまた多い。鹿児島市内だけでも温泉銭湯が約30個所、料金も300〜350円と手ごろである。朝、5時すぎには開館する銭湯もあって、朝風呂会などの温泉同好会の活動も盛んである。温泉は日常の一部となっていて、まったく改まっていく所ではではないようである。したがって、温泉地の大部分は歓楽街などには立地しておらず、街なかや渓谷に溶け込んだ山里などに所在する場合が多い。隼人町の天降川(あもりがわ)沿いに開けた「日当山温泉(ひなたやまおんせん)」もそのような温泉地の一つである。 天降川は温泉のメインストリート。日向山温泉を一番下流にして、妙見、新山、塩浸、安楽温泉等々と数珠つなぎに上流へと連なる。
日向山温泉には十数軒の温泉旅館がある。道路沿いあるいは住宅地の中などに散在する。どこも湯量は豊富。なかなかよい温泉地である。温泉地をゆったりと流れる天降川を眺めながら、湯治や家族、グループ旅行などにもいい。天降川の美しい観望がよい効果を与えてくれるだろう。
西郷さんはよほど温泉好きであったらしく、その足跡と逸話が各地に残る。日当山温泉も例外ではなく、西郷さんの人となりを伝える逸話が残る。南州公逸話集から紹介しておきたい。
“(西郷さんが混浴の湯壷で入浴していたところ)西郷さんは立派な色白い肥えた体躯に断髪頭だから、坊さんに違いないと思ったバアさんは、「きれいな坊さんじゃ」と褒めた上に、無理やり話しかけて、「寺を持っちょいやっとな」(寺を持っていらっしゃるのですか)と尋ねたので、西郷さんも返事せずにはおられず、「桜島を持っとるが」とニッコリ愛嬌たっぷりお答えになった。”とある。薩摩の人々の西郷さんへの敬愛は、この逸話から読みとれるように、誰に対しても変わることのない立派な人格に対する支持であろう。維新に果敢に立ち向かった肝っ魂の据わった無二の大人物であることを一番よく知っているのも薩摩の人々である。 |