九州絶佳選
福岡
大野山-太宰府市坂本-


(大野山を望む)
大野山 霧立ち渡る わが嘆く 息嘯おきその風に 霧立ち渡る (山上憶良 万葉集巻5—799)

 都府楼の大極殿跡の北側に大野山(標高410㍍)が横たわっている。唐・新羅の侵攻によって大宰府の水城が破られるなど有事の際に、官人は都府楼北西の山裾から一気に大野山を駆け登り、大野城に避難することになっていたのだろうか。大野山は石塁、土塁を巡らせた山城だ。大宰帥・旅人の邸宅は都府楼の北西、今の八幡神社辺りにあり、大野の登り口に近いところにあったという。
 近年、大野山の山裾にもマンションや近代的な住宅が建ち並ぶようになり、寂びた雰囲気も感じられなくなったが、坂本辺りの山裾に若干、田畑が残っていて大宰府の古色をとどめている。
 春の日、霧こそ立っていないが、大野山に霞がかかり、菜の花が風に揺れる景色など眺めていると憶良の日本挽歌が浮かぶ。旅人の妻・坂上郎女が逝ったのは728年(神亀5年)、おうちの花(センダン)が咲く春の頃だった。
 都府楼の表通りもよいが坂本辺りの山裾から国分寺跡、戒壇院、観世音寺へと大宰府の山道を歩くのもよいものである。-平成18年3月-