阿讃の峠(相栗峠)-香川県高松市塩江町、徳島県美馬郡美馬町-
  阿讃山脈の高峯大滝山と竜王山の尾根がなだらかなカーブを描き、ぶつかりあい融けあう辺りに相栗峠(写真上)がある。
 相栗峠は、阿波と讃岐の国境を分ける峠。阿讃の人々や使役の牛馬が往来し、両国の文化をはぐくんだ峠。峠の北に塩江町上西地区、南に美馬町平帽、清田地区が展開する。近年、県道7号線が整備され交通の便も比較的よくなった。
  県道に沿って上西地区の内場ダムから峠に向かう道筋に、藁葺木造住宅の骨格をそのまま残し、屋根に亜鉛引き鉄板を被せた農家住宅(「大屋根住宅」と仮称)が新緑に映えている。赤く或いは銀色に輝く大屋根が阿讃の自然に融け込み、静かな美しい山村風景を醸し出している。
  峠を越え清田の山麓沿いを往くと、深く険しい竜王山の南斜面に展開する集落に大屋根住宅が点在している。田植えも近い。山田がきらきらと輝いている。傍らで茶摘みをする人々の姿がみえる。橙色に染まった一角は、キンセンカの栽培畑。遙か彼方に吉野川が春霞のなかにある。人と自然が織りなす村々から阿讃の絶唱が聞こえる。
  黒砂集落の手前に幅30メートルの美しい無名の滝がある。落差は裕に50メートルほどある。
  大屋根住宅は、讃岐の塩江、大内、琴南や阿波の美馬町、吉野川の左岸平野部の農村貞光町、一宇村などに較的多く残るが、瀬戸内海沿岸部ではほとんど目にすることはなくなってしまった。→次ページへ