女木島(鬼が島)−高松市-
女木島
女木島
女木島
女木島「高峰」
オーテ
 高松市の北、4キロメートルの海上に、女木島(めぎじま)が浮かんでいる。周囲約9キロメートル、南北に細長く、島中央の東西に東浦、西浦の集落が開け、人口240人余の島民が暮らす島である。
 島の南北にそれぞれ「高峰」(たかとう。標高216メートル。写真左)、「鷲ヶ峰」(わしがみね。標高187メートル)が聳え、ビュートの山容を瀬戸内海に映している。
  女木島は南北3.5キロメートル、東西1.5キロメートルと細長い地形から季節風(西風)を受けやすく、山塊に阻まれた季節風が方向を変え島の東岸の地区・東浦を襲う。このため、古来、東浦の海岸端の民家は、石垣の防風垣「オーテ」(写真左下)を築いてきた。高さ3、4メートルにもなる要塞のようなオーテは、この島の永い風との苦闘の歴史を物語っている。白っぽい花崗岩と黒色の安山岩をちりばめ、隣家の垣と対比させる美意識も捨てられてはいない。大変美しいものである。
  防風に石垣を用いる民俗は、奄美諸島(瀬戸内町西古見集落)や大分市関の黒が浜等の海浜部などで見ることができる。西古見集落は珊瑚礁、黒が浜は緑色片岩などの石材が用いられている。大変美しいものである。(写真下)
   女木島の別称は「鬼が島」。島に桃太郎の鬼退治伝説が残る。鷲ヶ峰の頂上直下に、約4000平方メートルの「亀の甲天井」と名づけられた洞窟がある。ノミ跡も生々しく見事に仕上げられた洞窟は、遠い昔に人為が加えられた巨大な建造物である。
  縄文期に誕生し、九州−近畿地方が連なった瀬戸内海は、古代においても本邦のメインストリート。島の領有権はクニの安全保障上無視できないばかりか、制海権を手中にすると巨万の富を得る。女木島は、備讃瀬戸を南北に断つ要衝の島。高松、鬼無、綾南地方に残る讃岐の「桃太郎伝説」は、魅力ある海域で繰り広げられた制海権の争奪抗争を映したドラマとも考えられる。瀬戸内海は重要かつ魅力的な海域の証。後年、永く天領とされた島のいきさつなどに思いを馳せると、一層よく理解できる。
奄美大島西古見(防風石垣) 大分市関(防風石垣)
  島周りはハイキングコースが整備され、延々と植わる桜並木は壮観である。近年では「桃太郎」の連想から並木にモモが植わる区間もある。アベマキやバベ(ウバメガシ)の純林が美しい林班をつくり、センダンやヤマクワ、エノキの大木が茂る。路傍でノアザミが初夏の陽を浴びている。海岸端ではトウモロコシ畑の向こうに、屋島、大島などが浮かんでみえる。飽きることのない女木の自然は備讃瀬戸の至宝。
  島周りの畑では、ソラマメ、ニンニク、オクラ、サツマイモ、落花生などの農作物が栽培され、サワラ漁が最盛期を迎えている。豊かに見える島も、海底パイプラインで水や電気が供給される前までは水は船で搬送され、電気は使用が制限されていたと島の人。美しい松林もある島は、まもなく海水浴客などで賑わう夏を迎える。-平成15年5月−